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人生は、小説よりも  作者: 聖沢 雅
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クレープ屋のデノさん

 毎週水曜の仕事は電車で20分ほどのところへ小さく出張しているのだけども、私はその駅前のイオンモールにあるクレープ屋に寄ることを毎週の楽しみにしていた。


 デノさんという、どこか中東からの留学生の女子が、いつも手際よくクレープ生地を鉄板に流し広げ、さっさと具材を乗せソースを掛け畳み込んでいく。実に鮮やかな所作であった。


 容姿端麗かというと、デノさんはかなり丸々と(ふと)っていた。しかし骨格的に頭がえらい小さく、胴体や手足は膨れているのに顔がシュッとしている。そして日本語は流麗。


 きっと大学でも成績優秀なのだろう、と私は勝手な想像を展開していた。


 さて、ある水曜日のこと。いつものようにチョコバナナクレープを注文したくカウンターへ向かったところ、デノさんの隣に日本人らしい女の子が立っていた。


 いらっしゃいませ、の挨拶も辿々(たどたど)しく、明らかに新人なのが見てとれる。私は暖かな眼と、年々膨張を続ける全身の筋肉をもってチョコバナナクレープを頼んだ。


 先に支払いを済ませ、新人がクレープ生地を鉄板へ。むう、しかしこれはあかん気がするぞ。思うように円く広がっていない。女の子はその上に具材を積載。親方であるデノさんの厳かなる視線。


 結果、やけに茶色く、形の整わないクレープが完成。新弟子は不安げにデノさんを一瞥、その顔色を窺った。


 その刹那、デノさんは新入りの手からクレープをむしり取り、手近なゴミ箱へダンクシュートを叩き込んだ。がこん。そして柔和な表情で「作り直します。少々お待ちくださいませ」と私に告げたのだった。


 文化の違いもあり、客に十全な商品を提供せんとするデノさんのプロ意識もあり、まあ多分いろいろあると思うんだけど、新人のことだし多少あれでも仕方なかろう、と私が受け取りかかったクレープを瞬時に打棄(うっちゃ)る姿は、力士のような豪胆さを有していた。


 (やや)あって、そのイオンのクレープ屋はつぶれた。デノさん達のその後は知らない。


 それでも私は彼女を忘れないだろう。出先にてクレープの販売店舗を見掛ける度、思い出すだろう。

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