一利のために
従兄の弦ちゃんは、何度も言うように天才である。常人には及びもつかぬ感性の持ち主だ。
本稿は、20年ほど前に遡るだろうか、弟の談話によるもの。
祖父母の家に泊まっていた弟と弦ちゃん。
しかし、私はそこに居た記憶がない。学校行事で外泊していたのだろうか。季節は冬のことなので、スキー学習か何かの時期だった、かも知れない。
二階にある寝室は寒く、二人は隣どうし、それぞれの布団に包まっていた。そこに突如、爆音が響く。
弦ちゃんが屁をこいたのだ。
弟は笑った。弦ちゃんも静かに笑い、さらに言葉を連ねる。
「ヤバいのが出たで。この布団の中、絶対めっちゃ臭いわ。これ、外にパタパタしたくなるやろ」
弟は頷く。
「でも、やらへんねん。屁えこいたらな、ほんまのちょっとやけど、暖かいやん」
そんな体感できるほど温室効果があるのかは私も知らないが、弦ちゃんの語りには、いつも説得力があった。
「百害あって一利なし、って言葉あるやろ。この屁もそうやと思うやん。でもな。俺は、一利のために百害を冒す」
一利のために百害を冒す。新語、誕生の瞬間である。
さて。人生にはその通り、一利のために百害を冒さねばならぬ時もあるかも知れない。その瞬間、凡人は二の足を踏むであろう。しかし弦ちゃんは違うのだ。
そう言えば弦ちゃん、一回り年下のモデルの彼女とは今もうまくやっているんだろうか。私は直接会ったこともないが、周囲の評判はどうも以下自粛。




