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人生は、小説よりも  作者: 聖沢 雅
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嫌やったらやめとけ

 私が祖父母の家で暮らしていた高校生の前半、ビデオテープやカセットテープといった磁気記録装置はギリギリ現役だった。


 とは言え、音楽に関してはCDやMDが既に幅を利かせていた。どこの部屋だったか、抽斗(ひきだし)から原始的なテープレコーダーが出てきた時、妙に新鮮だったのをよく覚えている。


 レコーダーを発見してからしばらくは、そのマイクでテレビの音楽番組の楽曲を拾い録音、自分好みのセットリストを作ったりして遊んだ。


 まあテレビの音をマイクで拾うという愚挙に、音質など期待できるわけもないが。


 ある日、私は居間のテレビとビデオデッキを用い、誰もいない時間を見計らってビデオを再生。それから手元にある四角いレコーダーの録音ボタンを押し込んだ。


 独りの時間を選んだのは無論、レコーダーがテレビ以外の生活音も拾ってしまうからである。


 当時ヒットしていた矢井田瞳の「Look Back Again」が始まり、私は呼吸すら抑えつつ、その演奏を見守る。


 そこにガチャリ。ドアが開いた。祖父である。あ、ダメだこりゃ。しかし矢井田瞳(ヤイコ)はもう歌い始めてしまっている。


 Yeah, yeah, yeah。その歌声をぼんやり聴いていた祖父は、飄々(ひょうひょう)とした表情で口を開いた。


「イヤ、イヤ、イヤやて。嫌やったらやめとけ」


 さらに私が吹き出す声まで録音されてしまい、計画は失敗に終わった。


 後で確認してみると、綺麗に


「Yeah, yeah, yeah」

「イヤ、イヤ、イヤやて。嫌やったらやめとけ」


という掛け合いがテープから聴こえてきた。これは我々きょうだい三人、爆笑のネタとなる。




 さて、もう祖父の声も聞かなくなって長い。今になって思うのは、


「嫌やったらやめとけ」


という当時の言葉そのものは祖父なりのジョークなのだけども、これが彼の生き方をよく表現していたのだということ。


 当時の私たち、そして現在の多くの人々を見渡して「嫌なことはやめておく」という道を選ぶ度胸というのは、意外に持ち合わせていないものである。


 しかし祖父は、それを笑って遂行できる人だった。


 今に至るまでの私を省みても、だんだん祖父(おじい)に近付いているような気がする。


 嫌やったらやめとけ。好きなことだけ、やり。

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