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人生は、小説よりも  作者: 聖沢 雅
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音楽の力

 私が人生初、ひとり暮らしを始めたばかりの頃のお話。





 実家にいた頃、近所にヒロマサ君という弟の同級生が住んでいた。弟は、彼が同級生であることに複雑な感情を抱いているようだった。


 ヒロマサ君は犬と散歩する際、いつも歌っていた。それも鼻歌というレベルではなく、魂を込めて全力で歌っていた。


 うちの前が彼と犬の散歩コースだったが、通過の50メートル手前くらいからすでに歌声は聞こえていた。


 初めのうちは危険な人が何か叫んでいるのかと思っていたが、よく聴いてみるとそれは歌詞であり、本気のメッセージだった。


 尾崎豊とかの曲が多かった。他人とすれ違うときはちょっと音量を絞る気づかいも一応あった。


 ある時、おそるおそる窓から覗いてみると、ヒロマサ君は平井堅ばりに全身で思いを表現していた。


 将来の不安に潰れてしまいそうな時、恋人と仲(たが)いしている時、ヒロマサ君の歌声は僕の部屋まで響いてきた。


 僕は笑顔を取り戻し、恋人も一緒に笑ってくれた。僕らはヒロマサ君と音楽の力に感謝した。そして僕は敬意を込め、彼をHIROMASA-Tと呼んだ。


 毎日が楽しかった。




 時は過ぎ行き、今の土地に来た頃。


 僕は(はかど)らない引越しの片付けとシャワートイレ設置作業に追われ、心が(すさ)んでいた。


 助けは来ない。自分しかいない。涙が出そうだった。ていうか泣いてた。


 パッキンを組み込むの忘れててトイレから水漏れするし、狭い所の作業で腰が痛い。そして部屋はダンボールの海。


 そんな時、どこからか中島みゆき「地上の星」を原曲キーで熱唱する男性の声が聞こえてきた。


 まさか、HIROMASA? そんなはずはない。


 僕は窓から外を見たが、人の姿は見えなかった。


 それでも歌声は続いている。


 僕に笑顔と安らぎが戻った頃、いつの間にか歌は止んでいた。


 また僕は音楽に救われた。


 あれから一月ほど経ったけども、あの歌は聞こえてこない。きっと今は他の誰かが、その力を必要としているのだろう。


 もしかしたら、次は僕が誰かを笑顔にする番なのかも知れない。いっぺん河島英五とか歌いながら歩いてみようか。もちろん全力で。




 いや県警にマークされるわ。

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