スーパー伊忍道 打倒信長
聖沢家は父を早くに亡くしており、裕福ではなかった。もっとも祖父母が援助してくれていたので、貧しい思いをしたことは全くなかったけれども。
そういうわけで、私が高校から大学生あたりの頃は、中古で50円とか100円で買ってきたゲームを楽しむ習慣があった。たいていスーパーファミコンやゲームボーイのカセット等である。
今でもはっきり覚えているのが「スーパー伊忍道 打倒信長」。
隣に並んで画面を見ていた弟は小学生だったか? まだまだ幼かった。
元々PCゲームの移植だったようで、1992年発売なのに漢字も使われている。グラフィックもしっかりしていて、これは期待できそうだ。どんなゲーム内容なのか。
……名前を決めると、唐突に話が始まる。あれ? 普通にRPGなの? しかも早々に起こる負け確定戦闘イベント。開始5分でプレイヤーの私たちに浮かぶ「これはクソゲーなのでは」という確信めいた予感。
その刹那、弟はスーパーファミコン本体から「スーパー伊忍道 打倒信長」のカセットをぶち抜き、あろうことか、全力で食いちぎったのだ。
端子部のほうから剥がれ、吐き出された灰色のプラスチック片。幸いにも損傷は外皮だけだったため、ゲーム自体には支障がなかった。
しかし、安価で買ってきたゲームソフトがいくらクソだったからといって、それを食いちぎる狂人が世界にどれほど存在するというのか。
その衝撃はあまりに大きく、数日間は「弟が伊忍道を食いちぎった」という事実で笑い転げる日々が続いた。
そして10年以上が経過した今も、それを思い出すだけで痙攣が止まらなくなるほど笑えるのだから、光栄 (現・コーエーテクモゲームス)と、それを破砕した我が弟は偉大と言うしかない。
スーパー伊忍道、たぶん今も実家にあると思います。