表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人生は、小説よりも  作者: 聖沢 雅
1/53

母のエゴサーチ

 母はきれいな女性(ひと)だった。


 23歳のとき産んだ子が、長男である私。ということもあり、とても若い。


 授業参観の日なんかは、我が母だけ自ら発光でもしているかのように輝いていて、同級生から「おまえの母ちゃん美人やな」と言われるのが常だった。


 ……なんでこんな類人猿みたいな私が生まれたか、それは置いておこう。端的に言えば父のせいである。


 とは言え、誰も年をとる。そして母の場合、見た目はまあまあ若くとも機械に弱すぎるところは原始人のようだ。移りかわる時代に、まったくついて行こうとしない。


 そんな母が50歳になったくらいの頃だったか、家にノートパソコンが来た。


 今まで二階に置いてあったデスクトップのパソコンには触れようともしなかった母が、居間でYouTubeなんかを観たりするようになったのだ。


 時代は巡る。原始人だって火を使う。


 そこで何を思ったのか、無知で無垢な母はGoogleに「聖沢 いずみ」と自身のフルネームを入力、検索したらしい。なかなか無鉄砲である。母よ、インターネットというのは怖いとこなんやで。


 結果、自分についての書き込みを見つけてしまった。「人探し掲示板」にて。


「投稿者 48歳 マツモト


京都出身、○○年生まれの聖沢いずみさんを探しています。今でも元気でやっているのかなあ。情報よろしくお願いします」


 完全に一致しており、まさに母のことだ。投稿は3年前。


 結婚していったん姓が変わり、色々あってまた元の聖沢姓に戻ってきた母と子。


「雅、見て見て。こんなん出てきた」


「何やな?」


 むしろ私のほうが、書き込みの主に興味をもった。母に尋ねてみる。


「……ふーん。『聖沢』で探してるから、たぶん同級生、いや(ちゃ)うな。一こ上か。中学か高校でマツモトって人、いた? 先輩とか」


「んー、いたかも知れへんなぁ」


「結婚して名字変わってたから、このマツモトにとっては消息不明みたいになってたんやろ? ここに本人いるで、って言うたろか。なんか面白(おもろ)いやん」


 私がそう言うと、母は少し考えてから、言った。


「いやぁ、やっぱりいいわ。もう何十年も経ってるしなぁ。その人が想ってくれてる私と、今はもう違うやろ。

探してくれてた人がいる、ていうだけで十分、嬉しいねん」


 母は中学、高校と相当にモテたらしい。他校の生徒が見に来たり電話してくることもあった、とか何とか。


 マツモトという人と母がどういう関係だったか、は聞かなかった。


 ただ母の選択は、相手にとっての「きれいな」思い出を、きれいなまま残すのだろう。


 だから訂正。母は今でも、きれいな女性だ。




 ちなみに2020年3月現在、母は未だにLINEができません。ガラケー。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ