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第六話 力の正体

 無限に広がる水平線の上を、巨大な蛇のような生き物が跳ねた。

 水面を這うようにウネウネと動き回り、金属音のような気味の悪い奇声を発しながら口だと思われる部分を開いたり閉じたりしている。

 するとその怪物は突然真上へと跳ね上がった。怪物が見据える先、はるか上空を見上げると、明るく輝く光が落ちてくるのが見える。

 その光にかぶりつくように、怪物は大きな口を開けた。そうしてその牙が目前まで差し迫った瞬間、怪物の全身はあっという間に光に包まれ蒸発していった。

 光はだんだんと弱まり、少女の姿へと形を変えた。


「なかなか手際が良くなって来たね、天音」


 広がる海の世界がバラバラと崩れ始め、後ろに存在する真っ黒な空間も、やがてサッパリと消えた。あたりはひとけのない廃工場に囲まれた場所へと様相を変えている。


「だいぶ慣れて来たよ。力......の使い方? って言うのかな......?」


 光の中から現れた少女、天音は少し離れたところから見守る真祈奈に笑顔を見せた。


「一週間でここまで使いこなせるんなら大したものだよ。毎日のように悪魔を狩ってるから、ここ最近の新風町で悪魔が人間に悪影響を及ぼした事象は確認できないね。キミの素晴らしい仕事ぶりのおかげだ」


 天音は照れ臭そうに頭をかいた。


「私......今すごく充実してるよ。私の中があったかいもので満たされてる感じ。最初はやっぱり戦うことが怖かったけど、今ではみんなを助けられてることに自信が持てる。こんなドジな私でもみんなの役に立ててるんだって、心から思えるよ」

「そうだね、キミはすごい才能の持ち主だ。この調子で使命を果たしていってくれ」


 真祈奈も満足そうに頷いた。


「そうだまきなちゃん、人間の学校はどう? もう慣れた?」

「いやいや、実際ボクは学校に通ってなんかいないからね。ただキミのそばにボクの声を届かせる人形を置いているだけだ。人間の生活なんてボクにとっては理解不能なことの連鎖だからね」

「えー? 楽しいと思うんだけどな?」

「そうかい? ボクと人間とでは少し距離がありすぎる気もするからね。難しいところだよ」

「まきなちゃんは天使の友達とかいるの?」


 真祈奈は少し間を開けて、考えるような仕草をした。


「友達っていうのは人間が社会生活の中で作り出した概念さ。ボクにそれは当てはまらない。それに、前にも言った通りそういう存在はいざと言う時に自分の首を絞めることになるしね」

「そっか......天使ってちょっと寂しいんだね」

「まあそこは人間との感覚の違いかな。キミたちが一人では生きていけない生物だってことも承知してるつもりだけどね。キミはこの使命のことを誰にも話していないだろうね?」


 真祈奈は天音に詰め寄って念を押すように言った。


「言ってないよ。いろはちゃんにも、まいかちゃんにも、そうすけ君にも秘密にしてるから」

「......それでいいんだ。そうでなきゃこの使命は果たせないからね」

「たまに......どうしても不安になるんだ。この使命のことで......だけど、ヒーローは人知れず戦うものだからって思うことにしてる。そう思えれば、ちょっとカッコよくなれるかなって」


 天音は少し恥ずかしがりながらもそう明かした。


「......人間の最大の弱点は精神だからね。気持ちの弱さが死を招くこともある。そこを自分なりの方法で補助できているなら、とてもいいことだよ」


 真祈奈は笑顔を見せた。しかしすぐその直後、少しだけ眉を下げたかと思えば、隠れるように素早く姿を消した。


「お前は......天音? こんなところでなにをしてる?」


 後ろから突然声を掛けられ振り向くと、そこには亮牙が立っていた。


「り......りょうが君......」

「悪魔の気配が消えた......まさかお前がやったのか?」

「............うん......実は私も......」

「冗談だろ!? じゃあこの前のあれはなんだったんだ!? 俺をあぶり出す為の演技だったのか!?」

「え......? なんでそんな! ちょっと前に初めて悪魔を倒せる力をもらったばっかりで......」

「そんなはずないだろう!? 前にお前を助けた時からそんなに日は経ってないよな? その間にお前は悪魔殺しの力を得たってのか?」


 亮牙は凄まじい剣幕で天音を怒鳴りつけた。


「でも......ホントに......私、突然倒れちゃって、天使に助けてもらって、その代わりに悪魔と戦ってるっていうか............」

「天使......だと? なにを言ってるんだお前? そんなものは存在しない。適当なことを言うな!」

「そんな......! 私はウソついたりしないよ!」

「お前には信じられる要素が一つもない。同業者を狩る悪魔殺しもいないことはないからな。悪魔以上に危険な存在だ......」


 そこまで言いかけた時、亮牙は突然目を見開いた。


「お前......なんだ......この気配......?」

「......え?」


 亮牙は天音から距離を取るように一歩後ろへと下がった。


「くそ......まさか......そんな事が......!?」


 亮牙の全身は小刻みに震えている。そしてその震えを止めるように、グッと拳を握った。


「お前......やっぱり俺の敵だな。どちらにせよこのまま放っておくわけにはいかない」


 亮牙は天音を前に戦闘態勢に入った。


「えっ......!? ちょ......ちょっと待って!」


 天音の言葉には一切耳を貸さず、亮牙はまっすぐ突進をかけた。

 天音の周りには鐘のような音とともに光の障壁が形成される。それに弾き飛ばされ、亮牙は勢いよく壁に叩きつけられた。劣化している壁は簡単に崩れ、亮牙はがれきの山に埋もれるようなかたちになった。


「ぐ..................っ! なんだ......この光......!」

「落ち着いてよ、りょうが君! 私が敵だって、どういう事!? そんなわけないでしょ!?」


 天音の必死の訴えに、亮牙は困惑したような表情を見せた。


「くそ......! 俺だって人間の相手なんかしたくないが......そんなこと言ってられないだろ......!」

「どうして!? 説明してよ、なんで私を攻撃するの!? 信じられない事がたくさん起きてるかもしれないけど、私はりょうが君の味方だよ!」


 その言葉に、亮牙は渋い顔を浮かべた。


「悪魔の習性は、俺にもまだわかりきってないところがある。確かに......お前の正体を探る方を優先すべきかもな」

「私の......正体?」

「しばらく俺はお前に手を出さない。だがお前が妙なことをすれば、すぐに殺してやる。これは警告だ。この街でお前の好きにはさせないからな」


 そう言って、亮牙は天音を睨みつけながら去っていった。


「やれやれ、やっと居なくなったか」


 そのタイミングを見計らって、真祈奈が再び姿を現した。


「どうして......? どうして私とりょうが君が敵同士になるの......?」

「前にも言っただろ? 人は力を得ると喜ぶけど、同じ力を得たものを見つけると恐怖する。ただでさえキミは天使であるボクの力で創り上げられた特別な存在だ。彼の常識を覆すようなキミの存在を、彼が恐れないはずはないんだよ」

「でも......ちゃんと話せばわかってくれるよ......!」


 真祈奈は首を小さく横に振った。


「キミは力を持つ人間としての自覚を持ったはずだろう? 戦う意味を自分なりに見つけ出したはずだろう? 彼の存在はキミにとって本当に必要なものか? 危険にしかならないようなことは避けるんだ。だから誰にも話すなって言ったんだよ? キミがしっかりと使命を果たすためには、孤独に負けるようじゃダメなんだよ」


 強い口調で言う真祈奈から、天音は目をそらしてしまった。


「キミはこの使命からは逃れられない。交換条件だからね、キッチリ果たしてもらうよ。そのために必要な覚悟をキミには決めて欲しいね」


 天音は結局、何も言う事が出来なかった。

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