プロローグ
「人間の『願い』の力には素晴らしいものがある。ボクを生み出したことが何よりの証拠さ。一人ひとりではただの妄想、だけど多くの力が集まればそれは形あるものを生み出す力に変わる。でもボクは神じゃない。もちろん人間も神にはなれない。だからボクは作ることにした。人間が最も欲している存在をね」
見渡す限り真っ白な空間にポツリとたたずむ一人の少女。歳は十くらいだろうか、髪は肩につくぐらいの長さで、焼いた栗のような色をしている。身長も歳のわりに小柄だろう、その手もリンゴを片手で握れないほど小さいように見える。
だがその目はまるで石のように冷たく、無機質だ。生きているものの目とは思えないほどに暗い。その目で見つめる先には、もう一人の少女がいた。
こちらの少女もやや小柄だが、さっきの少女よりは少し背が高い。長めの髪は頭の後ろで束ねられ、肩にかかっている。その目は先ほどの少女とは対照的に光っているかと錯覚するほど明るい。暖かさすら感じるほどのその穏やかな目が、今は少し鋭くなっている。
「あなたとはもう一回ゆっくり話をしたかった。聞きたいことがたくさんあって、言いたいこともたくさんあって、でもそれ以上に、やらなきゃいけないことがあって」
「そうだろうね。キミとボクにとっての最後の仕上げになる。不安も戸惑いもあるだろうね。だけどその気持ちはボクたちが進んでいくために必要不可欠なものなんだ」
二人の少女は見つめあったまま動かない。ひとりは軽く唇をかみ、もうひとりはうっすらと笑みを浮かべている。
「さあ、始めよう。人類が不幸を感じる最後の瞬間だ」
その言葉とともに、あたりの真っ白な世界は崩れ落ちた。