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異ノ子  作者: Lie街
2/3

第2話 獣か?人か?

チンッ


エレベーターは最上階に着きあとは、3重ロックされた扉のパスワードを一つ一つ打っていく。


ウィーン


最後の扉が開き、ドアノブをひねると音は思わず息を呑んだ。


「すごい。初めて見た……空だ!」


真っ青な天井に白い綿がふわふわと浮いていて、青々とした原っぱが音の足元に広がっていた。


「無限に広がるこの青に、漂流していく白き雲。光る太陽が目を塞ぎ、未だ直視は難しく。うん、いい詩がかけた。」


音の趣味は詩を書くこと。児童養護施設の中でもたくさんの詩を書いてきたのだ。


「そうだなぁ、どっちに行けば。ん?」


遠くの方から、なにやら黒いぽつがこっちに向かって走ってくる。それは次第に大きくなっていき音はその黒いぽつが人であることに気づいた。


「どけろ、どけろ〜!」


「うわぁ!!」


突然飛んで来た男に反応出来ず、音が思わず尻もちを着くと男は華麗にひらりと避ける。


「痛て〜。」


音は砂を払いながらゆっくりと立ち上がると男は顔を覗き込んだ。


「この辺で人を見るなんて久しぶりだな〜。俺の名前は皮神躱壱かわかみかわいつ。壱って呼んでくれ!ところで、お前はどこから来たんだ?」


両腕が細く長く、いかにも身軽そうなその男は破けたTシャツとボロボロのズボンを履いて頭にヘッドホンをつけていた。


「へ?あぁ、僕は山内音。この一本道をしばらく行った所のノアイという地下大国からきたんだ。」


壱は困惑した表情をあらわにした。


「ノアイ?…ノアイってなんだ?」


「ノアイを知らないのか?」


音もまた、驚嘆を隠しきれずに思わず聞き返す。


「それじゃ、壱はどこから来たの?」


音は辺りを見渡すが辺りは鬱蒼としていてとても付近に国や街や村があるとは思えない。


「俺はどこからも来ちゃいないよ、ずっとこの森の中で暮らしてきたのさ。」


壱はポケットから芋を取り出すと自分の口に放り込んだ。


「うへぇ〜、そんな人間がいたのか。」


音は目をぱちくりさせて驚いている。


「それより、音も気をつけないと。ここら辺はモンスターが出やすいぞ。俺みたいに異ノ子でもない限りボコボコにされるぞ。」


壱は冗談めかしてそう言い放つと、豪快に笑った。


「え、壱ももしかして異ノ子なの?」


壱の話を聞いていた音は目を見張って言った。


「ん?なんだ音もそうなのか。俺は避ける男アヴォイドの異ノ子。音は?」


「僕は、詩人ポエマーの異ノ子。壱の能力はどんな…」


音の言葉は目の前に現れたモンスターに遮られてしまった。


「ぐぁぁぁあ!!」


モンスターのうめくような鳴き声が辺りの木々を揺らしながら共鳴する。


「おっと、話は後にしよう。デカブツのお出ましだ。」


「あぁ。」


2人は身構えて、モンスターの動きを観察した。


「来る!」


二人同時にそう叫んだ。


「ぐぁぁぁあ!!」


モンスターは、2人めがけて素早く右腕を突き出した。壱は慣れた様子でひらりと避け、音はかすり傷を負いながらもかろうじて地面を蹴って避けた。


「トドメは任せたぜ!音!」


そう言うと壱は身軽そうな体を巨大なモンスターの頭上まではね上げそのままかかと落としをくらわせた。


「ぬぁぁぁあ!!」


モンスターは体を左右に揺らした。かなりこたえているようだ。


「岩の苔の蒸すまでに終わる、この命のあるがままに生きるため…」


音は詩を呟きながらモンスターの体を駆け上がる。


「運命に従い右手に宿れ。」


音の右手が巨大な石のように変化していた。音はそのままその右手を振り落とした。


「あぁぁぁ!!…」


モンスターはその場に倒れ込んだ。


「ふぅ…」


音は軽くため息を着いた。音の右手はもう元に戻っていた。


「すげぇな、音!それが詩人の異ノ子か。」


「えへへ…そう言えば壱の能力は結局…」


「え、見てなかったのか。ほら、こいつが右腕で俺達を狙って来た時に避けただろう?」


モンスターを指さしながら壱は音に説明をする。


「うん」


「それが俺の異ノ子さ。」


音は少し考え込んで、やがて合点が言ったかのような表情をした。


「へー、なるほど。」


「あ、お前今地味だなとか思っただろう。」


「いやー、別に。」


音は目をそらす。


「地味な異ノ子で悪かったな!…ま、いいんだけどさ。音はこれからどこに行んだ?」


「この地図に書いてある場所に行きたいんだけど。」


小さく畳まれた地図を開き壱にみせる。


「ここへ行くにはこの森を出ないとだめだな。よし!音、俺をお前の旅の仲間にしてくれ。」


「え?」


唐突な申し出に、音は呆気にとられていた。


「そうすれば、お前には頼もしい仲間ができてしかも案内人もできる。一石二鳥だと思わないか?」


壱はこれから始まる長い旅の予感を感じて、答えを聞く前から瞳がキラキラと光っていた。


「確かに、それは名案だ!それじゃ、君を仲間にしよう!」


壱はとても嬉しそうに一通りはね回ったあと、少し哀しそうな顔で音にひとつ頼みごとをした。


「僕の住処に来てくれないか。そこに紹介したい人がいるんだ。そして、しばらくのお別れを告げなければならないから。」


音は少し驚いた。こんな山奥にまだ人がいたのかと。


「ああ、いいよ。きっととても長い旅になるから、気が済むまでお別れの言葉を交わすといい。」


壱は照れくさそうに笑うと裾をいじりながら。


「音…。お前良い奴だな」と言った。


その言葉を受けて、音がありがとうの代わりににっこりと笑うと、壱も再び照れくさそうに笑った。

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