第1話 ノアイ村出発
「ノアイ」ここが朝が来ない国と言われる由縁はここが巨大地下施設で、空を天井で隠しているからだ。それでも、この国を愛していた国民は皆争うことも無く平和に暮らしていた。
「音!空ってなーにー!」
両親の居ない山内音やまうち おんは同じ児童養護施設の子供にこんなことを聞かれた。
「ノアイには高ーい天井があるだろ?」
「うん!」
「それよりももっと高ーい!高ーい!所に青くて広くて、白い綿がいっぱい浮いている空があるんだって。」
「なにそれ!すごい、魔法みたいだね!」
子供たちはキャッキャと喜びながら走り回っている。この施設の児童の中で最年長の音は、走り回る子供たちを追いかけ回していた。
「コラー!また走り回って。」
先生の声に一同は立ち止まる。
「ごめんなさい。」
少し、不貞腐れたように子供たちは言う。
「音、ちょっといい?」
先生は顔を上げて音に向かって手招きをした。
「国王があなたのことを呼んでるみたいなのよ、今日この後すぐに城に向かってくれる?」
先生は急な国王からの要請に戸惑っているように眉を困らせ語尾を上げた。
「分かった。すぐに向かうよ!」
「あら、失礼のないようにね。普段は急に呼び出されたりすることはないんだけど…」
そこまで言うと先生はハッとして
「あなたの特別な力が関係してるのかもしれない。」
と言いい、さらにハットしたように。
「あなた昨日で20よね!」
と続けた。
「うん、昨日の誕生日会で20歳になったけど…どうして?」
「実はその年齢になるまで秘密にして置くのがいいと思ってずっと言ってなかったことがあって…」
先生は俯いて何やら言いにくそうに、もじもじとしている。
「なに?先生、どうしたの?」
音も先生の複雑な心境を汲み取って、問い直す。
「いい良く聞いて。」
先生は大きく息を吸いそして吐いた。
「あなたは来週には旅に出ないといけないの!」
「え?どうして?」
音の目にうつる先生の表情はとても冗談とは思えなかった。
「分からない、詳細は国王に聞いてみないと。極秘だからって私にも教えてくれなかったの。」
「…、わかった。とりあえず今日、国王に聞いてみるよ。」
音は興奮する先生とは裏腹に声は低く落ち込んでいた。
賑やかな街を抜け、高い塀に覆われた城を目の前に息を飲み込んだ。門番に国王の要請書を見せ中へと案内してもらう。長く赤い絨毯が敷かれた先に国王が玉座に肘をついて座っていた。
「よく来たな音よ。」
国王の声は広い部屋によく響いた。
「はい!」
「まぁ、そんなに固くならんで良い。何も実験体にするわけでもないのだから。」
そう言うと、国王は音のために小さな椅子をひとつ家来に持ってこさせ。自分は椅子の背もたれにより一層もたれた。
「今日、お前を呼んだのは地上世界奪還のためだ。」
「地上世界奪還…?」
「音、お前には特別な力が備わっておるじゃろ。」
「はい!確かに僕には昔から不思議な力が宿っております。」
国王はにこりと笑う。
「そうじゃろ、そうじゃろ。その力でモンスターの元凶を討伐して欲しいんじゃ。」
「僕にですか!?」
「そうじゃ、お前にならできる。なに、地上世界にも同じような志を持つ仲間がきっとおる。大丈夫じゃ。」
(んな、無責任な…)
「お前のような能力者を異ノ子という。」
「異ノ子…」
「そうじゃ。」
「僕に出来ますかね…?」
音は苦笑いを浮かべる。
「大丈夫じゃ!!お前は生粋の異ノ子だからの!食料はわしが用意した。鳥を操ることを得意とする兵に、持っていかせる。場所も分かるように、ちと、能力を持ったものに位置情報を特定出来るマジックをかけてもらうから大丈夫じゃ!」
そう言い放つと、顔のシワというシワを波打たせニッコリと笑った。
「一週間後、出発じゃ。分かっておるな?」
「はい…!」
音は自信なさげに返事をした。
ーーー 一週間後 ーーーー
「音、行っちゃうのー!!嫌だー!」
「こら、ダメよ。音は旅に出ないといけないの!」
旅立ちの日の朝、身支度を済ませた僕に児童養護施設一同が見送りをしてくれた。どの顔もぐちゃぐちゃになるくらいまで泣いていた。
(危険な旅になるなんて言えないな。)
音も瞳を潤わせながら手を振った。
国王の城でマジックをかけてもらった音は地上へと上がるエレベーターに乗り込んだ。