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7話 スタテイス

「ふう、まだ始まってないみたいね。良かった」


 ホッと一息、噴水に腰をかけるシャーリサ。すると何人かの子ども、俺達より2歳か3歳年上のガキンチョが声を掛けてきた。


「おいおい。白頭のレールスじゃねえか。お前もスタテイスの儀式を受けに来たのかよ」


 こいつの名はサブトル。大柄の体型に浅黒い肌、くしゃくしゃの天然パーマが特徴的な典型的ガキ大将だ。


「ああ、別にきたくはなかったんだがな」

 ちらりと隣のシャーリサに目をやる。その意図を察してかサブトルは露骨に不機嫌な態度を取り語気を強めて言い放つ。


「そりゃあそうだよな。スタテイスを開いたらお前が魔法適性皆無の無能ってことがバレちゃうもんなあ」

「かもな」


 適当に返事をするが大体話は聞いてはいない。10歳のガキンチョの戯言にムキになるほど精神年齢は幼いつもりはないだ。


「言っておくが僕のパパは冒険者だ。だから僕にもその素養があるに違いない。もしお前が無能でもスキルに【剣術の心得】や【槍術の心得】とかがあるなら教えろよ。荷物持ち兼壁要因として仲間に加えてやる」

「そうか」


 空返事にも気づかず、イキリちらしてご満悦のサブトル。シャーリサを見れば「またいつものね」といった様子で苦笑している。

 そうして待っていると、村の門から馬車がはいってくる。豪華な装飾の施された、ひと目見ただけでやんごとなき立場の人間が乗っているとわかる馬車だ。


 こちらの近くまで走ってきた馬がブルルッと一声して止まる。降りてきたのは白を基調としたローブを身に纏った初老の男性だ。見るからに星神教の司祭だ。続けてもう一人降りてくる。先程の男とは対象的にもうひとりは俺達とそう年も離れていない少女だ。真紅の髪と切れ長な瞳。豪奢なドレスを身に纏った見るからにプライドの高いお嬢様といったところか。


「ほっほっほ。これはこれは皆さんお待たせしました。それでは始めましょうか」


 穏やかな様子で短く挨拶し、司祭は教会の奥へとはいっていく。それについていく形で子どもたちも教会の扉をくぐっていった。

 赤髪の少女はツンとすました様子で腕を組んだまま、俺達の様子を窺っている。一体こいつは何なんだろうという疑問はなくもないがシャーリサに「早く行こ」と促されるのでそのまま俺も教会へと足を運ぶ。


 入ればすでに司祭を先頭とした列ができており、順番にスタテイスの儀式を行っている。終わった子どもたちは早速自分のスタテイスを確認し喜んだり落胆している。

 冒険王に俺はなると豪語していたサブトルはというと顔を青くしたり赤くしたりといかにも愉快そうな様子だ。終わったらぜひ結果を聞いてみるとするか。


そうしてようやく俺の順番が回ってきた。司祭は笑みを崩さないまま俺に左手を差し出せと言う。言葉通りその手を差し出すと、司祭のしわくちゃの手が俺の手のひらにふれる。司祭は何かを調べるように入念に触れ、最後に両手で俺の手を包み込む。ポウと温かい何かが左手から流れ込んでくるような感触。そこで司祭は手を離し、儀式の終了を告げた。


「どれ、では開いてみなさい。やり方はご存知かな?」

 

 司祭は、にこやかに微笑んで早速スタテイスの開示を求めてくる。

 スタテイスを開くためには指で身体を触れ、数センチ動かすというのは予め聞いていた。指一本だと自分にだけ見え、指二本だと相手にも見せることが出来るらしい。早速俺は左の二の腕を右の人差し指と中指でフリック。


 すると半透明なディスプレイが開き俺に自身のスタテイスを教えてくれる。


名前 レールス

性別 男

レベル 12

能力 体力:G 魔力:F 筋力:F 敏捷:D 器用:F 精神:B

所持属性 無(タクン:300 スロトー:100)

習得魔法 

所持スキル 【剣の心得:C】【精神汚染耐性:B】


 案の定、適性属性は無しか。特に期待をしていたわけではないのでショックではない。むしろ意外なのは【剣の心得】を持っていたことだ。今まで剣の修練はおろか一度も振ったことすらなかった。せいぜいが鍬ぐらいだろう。

 【剣の心得】のスキルランクがCということは地方の剣術大会で上位を狙える程度の素養はあるということだ。弟が土属性の適性を持っていて家を追い出されることになれば、剣で食っていく他無いかもしれない。


「ふむ……これは」

「どうかしました?」

「あ、いや……年相応の能力と言えよう。これからに期待してるよ」


 ありがちなお世辞を述べて次の子を呼ぶ。次はシャーリサの番だ。彼女の儀式が終わるまで俺はぼーっと自分のスタテイスを眺め続けていた。


「ど~だった?」


 しばらくして随分と上機嫌な様子でシャーリサが声を掛けてきた。


「まあまあかな。案の定属性はなかったけど」

「属性がないってすごい珍しいよね。どんな人でも低練度なりに属性はあるものだけど」

「シャーリサはどうだったんだよ」

「え~とね、私は」


 早速彼女は自分のスタテイスを見せてくる。


名前 シャーリサ

性別 女

レベル 8

能力 体力:G 魔力:D 筋力:G 敏捷:F 器用:C 精神:D

所持属性 光(タクン:120 スロトー:60) 水(タクン:40 スロトー:30)

習得魔法 【スル・ライト・エイド】

所持スキル 【治療効果増加:B】


「へえ。デュアルスペルか」

「ふふ~ん。凄いでしょ。光はもう魔法も使えてたから適正があるのはわかっていたけどおまけで水も使えるならやれることは多そう」


 この世界では基本的に使える魔法の属性は一種類だ。二種類使えるものは【デュアルスペル】と呼ばれ羨望の眼差しで見られる。ちなみに三種で【トリプルスペル】、四種以上は前例が無いので呼び方は決まっていないが元の世界に倣うのであればクアッドスペルといったところだろうか。


「気になってたんだが、この属性の横にあるタクンとかスロトーっていうのは何だ?」

「ええ? レールス、知らないの?」

「教えてもらったのかもだけど、よく聞いてなかった」


 全くもう、と小さくため息をこぼしつつもシャーリサは俺に丁寧にタクンとスロトーについて教えてくれた。

 まずタクンとは空気中のマナを体内に保管し、魔法の元となる魔力に変換するスペースのことを言う。

 次にスロトーとはタクンから伸びた魔法回路のことだ。イメージとしては不可視の管のようなもので、スロトーの末端が魔法の発生点、及びにマナの吸収点にもなる。多くのものは右手か左手が発生点となるが口などに出ているものは魔法もそこから出るので見た目的にも実用的にも難儀するらしい。

 このタクン・スロトーにはマナと同じく六属性が存在する。火のタクンは火のマナしか保管できないし、水のスロトーは水のマナしか通せない。そして同じ属性のタクンとスロトーが存在しない限りこれらは機能しないそうだ。

 つまり魔法適性とはその属性のタクンとスロトー両方を持っていることと言いかえることが出来る。


「なるほど。だったらその横に出ている数字は何だ? タクン:120とかスロトー:60とか」

「タクンはその大きさ。どれだけマナを保管できるかをの容積を示しているの。スロトーは出力だね。スロトーって魔力の通る道でしょ?だからその幅が最大で60%まで引き上げることが可能って意味だよ。幅が多ければ高出力の魔法も放つことが出来るから習得可能な魔法にも関わってくるの」

「へえ。ちなみに聞くけどさ、シャーリサの光属性のタクンとスロトーは結構凄いほうなのか?」

「タクンはすごい人なら200ちょっとってとこかな。私の120は平均的なライン。スロトーは60なら中級魔法までは覚えられるから悪くはないかな。70あれば中級全体魔法も覚えられたんだけど……あまり贅沢は言えないわね」


 ほう、と俺は頷いてみせる。ゲーム的に考えればタクンがMPでスロトーが一度に消費できるMP量みたいなところか。


「私の方はこんな感じ! レールスのも見せてよ!」

「俺のは見てもあんまり面白いものじゃないぞ」

「いいから。私だけ見せたのに自分のは見せないなんてずるいわよ」


 そんなに気になるものなのか?

 別に見せたくないとかいじわるしてやろうという気もないので、俺も自分のスタテイスを開いて見せようとする。


「なんなのかしら? この汚物は」


 そんな時カシャーンとガラスの砕けるような音が響き渡った。教会内の全員の視線がそこに集中する。


 見れば先程の豪奢なドレスを身に纏った赤毛の少女が下劣なものを見るような棘のある視線をある男に向けている。


「も、申し訳ございません。お口に合いませんでしたでしょうか」


 男はその少女に顔を青くしながら何度も平謝りを繰り返し、足元に叩きつけられたであろうグラスの破片をいそいそと片付けていた。その男の名はジャック。この村の村長、そしてシャーリサの父だった。


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