七.《箸を手にした》
食事に感謝。
皿の中は緑や赤、黄色のベビーリーフのような葉っぱと赤黄青緑白の五色の豆、赤黒いトマトのような物があった。
ドレッシングのようなものは掛かっていないようだ。
サラダにパンの組み合わせで箸というのはどうかと思うが、ま、食べられれば良いということで、改めて、いただきます。
口にすると、ほの苦さと、塩っぽさ、青臭さが入り混じって、なんとも言えない味だった。
「葉っぱだけ食べたら、不味いよ」
少し笑いながら、ヒビキが告げた。
早く言えよ。
モショモショと噛むうちに葉っぱのどれかが粘り気を出し、口の中で納豆が現れていた。
青苦い納豆って、なんじゃ!不味い!
相当おかしな顔をしていたのだろう、給仕の女性が笑いを堪えながら小さな壺を四つ、それぞれの前に置いて行った。
「赤と緑の豆を一緒に食べてみて」
ヒビキに言われるまま、二色の豆を口に入れる。無味無臭の豆。煮たものだろう、噛むと柔らかくフワリと甘い香りが広がった。
すると、口に残っていた青苦さがスッと無くなり、何故か酸味に変わり、納豆のような粘つきも無くなった。口の中で甘みのあるドレッシングのサラダになった。
「なんだこれ」
「美味しい?」
「・・・、微妙。なんでこんなに口の中で変化するんだよ。初めっから甘みのあるドレッシングのサラダでいいだろ」
「ああ、その組み合わせになったのか。良かったね、普通の味で」
「ええ!まさか、他にも味が変わるのか」
「食べてみたらわかるよ」
このサラダ、ロシアンルーレットなのか?
「いや、死なないから。大丈夫だよ」
はっ、また心の中を読んだのか!
「・・・、あんな神妙な顔してたら、なんとなく分かるよ。言ったでしょ、人の心を読んじゃダメって言われてるんだから。普通の時は読まないよ」
伊達に年は取ってないということか、とヒビキを見ながら思っても何の返しもない。やっぱり、読んでないのか。
口の中をリセットするため、パンを手に取る。
少し硬めのパンを一口大にちぎって口に運ぶ手を横から取られた。
俺の手を止めた無表情のセイが、それぞれの前に置かれてある小さな壺の内、ヒビキの前にある物を俺の目の前に置いた。
「これを付けたら、めっさ美味くなる」
めっさ?凄くってことか?
蓋を開けると壺に引っ掛けられた小さなスプーンがあった。
ほのかに甘い香りが広がる。
「蜂蜜?」
「そう、知ってた?めっさ美味しいよ」
無表情のセイだったが、雰囲気が変わった。
凄く嬉しそうだ。
「冬になる前に採れた貴重なものなんだよ。こういう時以外殆ど出てこない。リクが来てくれて、嬉しい」
それを無表情で言われると本当に嬉しいのか疑うところだが、どうしてか、セイの嬉しさが伝わってきた。多分、そうなんだよな?
「いや、貴重なものを出してくれて、此方こそ、ありがとう。嬉しいよ」
「これが、おもてなしって言うんだよね、大巫女?」
問われたサカエさんは箸を止め、ゆっくりと頷いた。
喋れない、のか?違う気がするのは気のせいか?
「じゃあ、試してみようかな」
ちぎったパンを壺の近くに持っていき、スプーンで掬った蜂蜜を零さないように掛ける。
甘い香りが広がる。
蜂蜜の香りなんて、随分香ってないなぁ。
メイプルシロップとは違う香りに益々食欲が刺激される。
給仕の女性が液体の入った器とスプーンを置いた。
「ありがとうございます」
声をかけると、驚いた顔をされた。
忙しいことを書けない言い訳にしたくはないが、
忙しいと、何も思いつかない。
・・・
骨しかない文章は面白くない
肉を付けたいのに、
肉。美味しい肉を付けたい。