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四.《誰なんだ?》

僕の大切な人の名前はツカサだよ


照れた様子もなく、むしろ、誰かに告げることが嬉しい様子で、ヒビキが告げた。


ツカサという人物に会いたいと思うが、百年も前のことを知っているのだから、相当な歳だろうし、ヒビキじゃないんだから、もうお亡くなりになっているだろう。


今は目の前の雪道に集中すべきだな。


気を取り直し、ヒビキが通った跡を辿る。

暫く歩くと、林の切れ目が見えた。しかし、その線を引いたようにスッパリと途切れた空間の向こうにも更に林が続いている。


一体どこまで歩くのか。

気づけば、林の切れ目の手前で立ち止まったヒビキが俺を見ていた。


「着いたよ」


俺の心を読んだかのような言葉だな。

着いたって、どこに?


「装置を見に来たんだよ?」


雪山という、寒い場所で、ただでさえ歩きにくい山道を雪に足を取られながら歩いた俺は息が上がり、言葉が出せない。肩で息をしていることに気づき、強張った全身の要らない力を抜き、二、三度の深呼吸を繰り返し、腹式呼吸に切り替える。

周りを見ても、装置と呼べるようなものはない。


どこにあるんだ?


「ここ」


ヒビキはどことも言えない場所を指差す。


指した方向へ手を伸ばしかけた。勢いのあった手が何もないはずの空間でコツンと物体にぶつかる感触がした。

その瞬間、赤い手袋から発生したように同じ色の光線が走り、空間に壁を描き、そのまま空へと伸びながら消えていった。


「何?」


驚いて手を引くと、見た目はやはり何も無い。


「手を貸して、可視化するよ」


手の平を上に向けて差し出して来たヒビキが何かを言った。また、あり得ないことを。何を可視化するんだ?


一つ息を吐き、落ち着く。手を握り、開いてヒビキの手を取った。


驚かないぞと覚悟をしたはずなのだが、やはり、いきなり目の前が赤くなったら驚いた。

先程、手が当たったあたりから薄っすら赤い壁が見える。壁に沿って見上げると壁ではない。空がドームのようになっていて、目に見える世界を覆っているようだった。

その覆いの表面を時々、赤い光が走っている。


「なんだ、これ」


「これが装置。放射能から民を守っている。世界が滅んだ時、人は放射能によって弱っていっていたんだ。それで、小さな覆いを作って、放射能を除去してみた。そしたら、弱っていた人がそれ以上酷くはならなくなった。だから、その範囲を少しずつ広げていって、今の大きさまでになったんだ。でも、これ以上は無理だね。維持する力とバランスはこれで手一杯」


まるで、ヒビキがこれを作って、維持しているような言い方だ。


「僕が作ったんだよ?」


ヒビキから手を離すと視界は元に戻った。


「・・・、三つ質問してもいいか?」


「どうぞ」


「これを作った?ヒビキが?」


「そう」


「ヒビキが居なくなったら、どうなる?」


「無くなっちゃうんじゃないかな?他の皆んなはこれのバランスを保てないと思うよ」


何でもないように言うが、内容は恐ろしい。


「あと、ヒビキ、お前、俺の思ってること、分かるのか?」


「あ、・・・ごめん。人の心は読んじゃダメって言われてた」


「ツカサに?」


満面の笑みを浮かべてヒビキは頷いた。


はあ、何でもありかよ。

でも、何でもあり過ぎて、異様なことが怖くはなかった。この世界は、そうでなくては生きていけないほど、厳しいのか。

そして、誰だよツカサって。


「さ、装置は見たし、戻ろうか」


何でもないように、ヒビキはまた、手を差し出してきた。

今来た道を歩いて、どこまで戻るか分からない雪道を歩くか、フラつくことを分かった上で、この手を取るか。悩ましい。


「もう、今更でしょ?」


首を傾げながら、ヒビキは悩む俺を促す。

溜息を吐きながら、その手を取った。

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