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二.《この人はどこから現れたのかなぁ?》

「気を失いそうとかないか?大丈夫か?」

内心穏やかではない俺に、女性は首を傾げて答えた。


思った以上に低い声に、一瞬、男かと思ったが、腕に当たる柔らかくて気持ちいいものが、それを打ち消した。

不自然な動きで一歩前に出て、女性から離れる。

べ、別に、不慣れなわけではない。ちゃんと、恋人とやる事はやってたし、ただ、唐突すぎて、驚いてる?感じだ!


「だ、大丈夫」

「そうか、気持ち悪ければ遠慮せず言え、客間は余り放題だからな」

微妙な心配の仕方をしてくれた女性はその場で一礼をした。俺ではなく、少年に対して。

「突然の訪問は困ると、あれ程言っておいたはずですが?」

淡々と丁寧語でクレームを述べる女性に

「あー、うん。ごめん。長居はしないからさ」

女性に答えたのは少年。

「まあ、いいです。困るのは私ではないので」

「うん、内緒ね」

「無理です。もう、皆動いてます」

「もう?」

「はい」

「それ、止めて。僕、ちょっと来ただけだから」

「ご自分で、どうぞ。私は新参ものですから。ナーナには敵いません」

「君の部下だよ」

「私はまだ習うことが多いので」

女性が後ろを気にするように目を向けた。

「来ますから、当人に言ってください。直答されれば、ナーナの機嫌はマックスになりますし」

少年が何かに気づいたように、視線を落とした。

「まだふらつく?」

視線の先に、俺がシッカリと握った少年の手があった。

「・・・いや、大丈夫だ」

ソロっと手を離す。

「やっぱり、君、人間?」

「どういう意味だ」

笑顔だった少年が途端に真面目な顔になり、口に指を当てた。

足音が近づく。

壁際に並べられた衝立から数人の女性が入って来た。

頭に被った布で口元しか見えないが、女性達は真っ直ぐにこちらへ歩いて来た。

少し離れた場所で女性達は跪く。

俺を支えてくれた女性といい、この女性たちといい、少年に対して恭し過ぎだろ。どういう立場なんだ、この少年爺さんは。

「ナーナ、直答を許された。挨拶はよいから、用件を述べよ」

「大神の衣をお持ちいたしました。お客人の物もございます」

先頭に跪く女性が答える。

「そうか、ありがとう。着させてもらおう」

少年が子供っぽくない言葉で答えた。

こいつの名前ってタイシンって言うのか?でも、日本語なら『様』とか付けるよな、ってことは、『タイシン』って、役職名なのか?

女性達はその場で一礼すると、立ち上がり、少年と俺の背後に移動してきた。


近くで見ると、女性たちの面布は薄いようで、灯の乏しい中でも薄っすら顔の輪郭が伺えた。

「失礼します」

どうやら俺も着させてもらえるようだ。

女性たちは分厚い衣類を持ってるんだが、俺は一体何処に連れて行かれるんだ?

「左手を」

言われて、左手を少し上げると合わせて袖が通され、続いて右手を上げると右の袖を通された。袖口は三角の形で頂点にあるリングに中指を嵌められた。手甲付きの上着とは珍しい。手を返して見ていたら、すぐに手袋を差し出された。

手袋というより、グローブに近い、下手をすると鍋掴みに見える。

手袋は手首より少し上までの長さがあり、それに重なるように二重構造の上着の袖が被せられ、ボタンで留められた。

厳重な構造だが、全体的に少しモコモコしたフード付きのコートだ。色は、何故か真っ赤。これでもか、というほどに、赤い。

表の生地と裏の生地の間にフワフワした物が入れられているようだ。棉かな?

上着の丈は膝くらいまである。着心地は軽くて、暖かい。

前身頃は左側だけが二重で、内側の左身頃を右身頃で、一度留め、外側の左身頃を合わせてから右の肩口と腰辺りで留められた。

「履き物を変えますので、腰掛けていただけますか?」

女性たちの連携プレイは素晴らしく、絶妙なタイミングで上着の着付け終わりから椅子の用意、そして声かけが流れるように行われた。

感心しつつ、言われるまま、腰を掛ける。

すかさず、後ろへ来た女性がモコモコした帽子を被せ、耳を隠す布を顎のところで停めた。後ろを整えてから前に回って来た女性の動きが止まった。

どうしたのかと思えば、少年が覗き込んできた。

「脱がせ方が分かんないんじゃない?」

「え?」

「そんな履物は無いもの」

「そうなのか?」

「そう。だから自分で脱いで」

「あ、分かった」

見た目はハーフブーツ。余った紐をグルグルと回して蝶々結びしているだけなんだが、・・・。まぁ、やってもらうばかりは申し訳ない。

グローブのような手袋でも、どうにか蝶々結びは解けた。

俺が紐を解く様子を、いつの間にか集まった女性たちは面布を付けてはいるが、その姿勢から食い入るように俺の手元を見ているのが想像ついた。靴を脱いで靴下を見た女性たちは、手で口を抑える人がいれば、口を引き結ぶ人、さらには手を伸ばしかけて、隣の女性に手を掴まれる人がいた。

どうやら、靴下がとっても気になるようだ。

欲望を抑えた女性が手にしていた靴を差し出し、俺の正面に座る女性がそれを受け取った。

用意された靴は中側がモコモコした皮の長靴。膝から足首あたりでパーツが分かれ、後ろ半分を覆う部分を前側から抱き込む型になっていた。ふくらはぎ辺りでボタンを三つ留めると女性たちはス、スっと離れ、元の場所に戻り、跪く。


「お支度、整いました」


先頭で跪いた女性が告げると、少年が頷いた。

「うん、ありがとう。ナーナの仕事はいつも早くて助かるよ。じゃあ、行ってくるね」


跪いた女性たちと白い髪の女性の声が響く。

「行ってらっしゃいませ」

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