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二十.《視線に頷いた》

 セイに連れられて来たのは、先日、ツカサさんとセイが『とろろかげとぞうじい』の話について議論していた部屋だ。

「ここは祈りの間といいます。大巫女がお話をする時によく使われる部屋です。  どうぞ、お座りください」

 間が空いたのは気のせいではなく、目が上を見たのを見逃していませんよ。ちゃんと勉強してるんだなぁ。

「では、失礼します」

 セイが示したソファに腰を下ろす。

 向かい合わせのソファにセイが座ると、ナーナさんが飲み物を乗せたお盆を持って来た。

「ナーナ、ありがとう」

「ありがとうございます、ナーナさん」

 それぞれの前にコップを置くと、ナーナさんは深くお辞儀をして部屋を出ていった。

 飲み物を前にして、喉が渇いていることに気づいた。ひとまず、一口。

「お、初めての味。何の飲み物だろ」

 酸味があってまろやかだからか、飲み易い。

「ナックワの身を茹でた汁です。今日の夕飯はナックワが出るみたいです」

 表情はあまり変わらないけど、嬉しそう。

「ナックワは好きなの?」

「美味しいです。おもてなしに出るくらい美味しいですよ」

「へえ、楽しみだ」

「はい、楽しみです」


 今の、笑った?


「では、リク、質問しても良いですか?」

「はい、どうぞ」

「この世界をどう思いますか?」

 曖昧な質問だな、どう思うかときかれても困るな。

「んー、はっきり言えば、まだ分からない。世界を見下ろして見たけど、人がどう暮らしているか、どんな思想を持っているのかも分からない。さっき知ったんだけど、日本語は使われていないんだってね、普通に暮らしている人と会話するには、言葉を勉強しないといけないから、セイの質問にはまだ答えられない」

「では、リクの暮らしていた世界はどんなところですか?」

 うん、これもまた、難しい質問だ。

「そうだな、ここよりも土地が広くて、多くの人が、一生の人生で世界を回ることはない。でも、各地の情報を得る手段が色々とあったから、まるで、その場所へ行ったかのように疑似体験のような感覚は持つことはできたかな。色んな人がいて、国ごとに代表の人がいて、自分の国を世界の中で一番いい国にしようとしていたね。そのために戦争をする国もあったよ。人がたくさん死んでも、戦争はどこかしらで起こってた。他人の死と、自分の死は確かに隔てられているけど、平気で他人を死に追いやれる感覚は俺には分からない。日本は大きな戦争で負けて、戦争をしない国になったけど、別の国で起きた戦争を止められるほどの国ではなかった、というか、交渉が上手い国ではなかったのかな。あ、ちょっと広すぎたか。人の暮らしだと、日本の生活水準は高い方だったと思う。電気、水道は使えて、節水することは、ほぼ無かったな。衣食住に困る人は確かにいたけど、国に申請すれば、補償を受けれてたみたいだし、ちゃんと働いて、給料をもらって、そのお金で生活をする。散財してたら、生活に困るだけだから、お金の管理はしっかりとしないといけなかった。中には、自分が散財しているのに、お金が無い、足りない、どうにかしろって文句を言ってる人もいたみたいだけど。でも、良識のある人は、散財せずに、足りるように工夫して生活していたんじゃ無いかな。あとは、子供に教育をしてたから、識字率は高かった。こんな感じかな」

「リク、質問です。センソウは国同士の争いですよね?オキュウリョウとかサンザイとは何ですか。オカネとは、どのようなものですか?」

 ん?

「ここにはお金は無いの?」

「ツカサから聞いたことはありますが、ここには無いです」

 うわぁ、どういう社会なんだ。

「えーっと、服が欲しい時とか、食べ物が欲しい時とかは、どうしてるの?」

「作ってます」

 自給自足だけでは無理なんじゃ?

「でも、食料でも、物資でも、足りないこととか無いの?」

「そういうときは、助けてもらいます」


 あ、だから、とろろかげとぞうじいの感想で、助けることが普通だって言ってたのか。

 違和感しかない。


「そうか、なるほど。お金のことはツカサさんから、どんなふうに聞いた?」

「対価だと。理解はまだ出来ていませんが、ありがとう、ということだとも言われていました」

「ありがとう、か、それはチップかな。でも、そうか、ありがとう、を形にした物がお金か、なるほどね。そこに価値を付けて、値段が決まるってところか」

「オキュウリョウとはなんですか?」

「仕事をしたことへの対価のお金のことだね」

「では、サンザイとは?」

「散財、つまり、貰ったお金を貯めずに、ぱあっと使うことかな」

「んん、よく分かりません、やはり、オカネの仕組みをもっと知らないといけないです」

 眉間に皺を寄せるセイはなんだか可愛い。

「セイも勉強、俺も勉強だな」

「はい、頑張ります」

 鈴が鳴った。

 見ると、入り口の横にぶら下がった大きめの鈴が揺れて鳴っていた。

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