十九.《大事なものに見えた》
「大巫女さま、質問してもよろしいですか?」
サカエさんの横を歩く案内役の小さな子が
前を向いたまま、言うのに対して、サカエさんは少し少女の方へ顔を向けた。
「本日お連れの方はどなたですか?新しい北の方ですか?それにしては、気配が違うように感じます」
「鋭いね、当たりだよ。時間を超えて来た新しい力ある者。いずれ、私の右腕になるだろう」
サカエさんの言葉に一層、好奇心を含んだ視線が強くなる。
右腕って、何を言ってるんですか。
「素晴らしい方なんですね、あ、あそこです。大巫女さま、道をご用意しますので、少々、お待ちください」
少女が指差したのは、ビル三階ほどの高さに浮かんだ、岩のような物。
そうして、少女が何やら小声で喋っていると、足元の岩が動き始めた。
ファンタジー映画のように、岩が形を変えて積み上がっていく。
この子も力持ちなのか?でも、力を持つ子はサカエさんや俺が眩し過ぎて見れないとか言ってたよな、どういうことだ?
見る見る間に、岩の階段が出来上がった。
「足元にお気をつけて」
少女が先に上がる。
ふと、手がさし出された。
サカエさんが、俺に手を差し出してる。
これは、エスコートしろということか?
「もちろんだとも」
・・・、力は使っては駄目では?
「君が抑えてくれれば、聞こえないさ。聞こえてくるものは、仕方あるまい?」
力の抑え方を教わらなくては。
「まあ、焦らず、ゆっくりといこう。ひとまず、エスコート」
差し出されたままの手を下から取り、少女の後を歩く。
宙に浮いたような階段は歩いているだけなら、普通の階段だ。空中遊泳に比べれば、大したことはない。
上に着くと、サカエさんは俺の手を離し、少女の横に並んだ。
「おお、これは綺麗だ」
そこはビオトープだった。
空中に浮かぶ岩にビオトープ?
いや、まず、少し高く積み上がった岩から流れ落ちる小さな滝があるのも可笑しい。どこに水源があるんだ?循環?どうやって?
「あぁ、五月蝿いよ、素直に感動すればいいじゃないか。ほら、美味しそうな魚も泳いでる」
「大巫女さま、ここに放している魚は小さくて食べれませんよ」
緩やかなツッコミ。いや、事実か。
「花も綺麗だ」
「はい、こないだから咲き始めました。ここの水は世界の巡りを縮小してみたものです。大神が管理されている、この世界の大きな巡りは難しいですが、この大きさなら、土と水、風の言葉でお願いすると、維持できました。土は私、ナナイが、水はこちらのハーニが」
少女、ナナイが右隣の背の高い人物の腕を持つことで、紹介し、次に左に立つ同じ背の高さの人物に手を当てた。
「風はニウイが受け持っています。微妙なバランスで、成り立っています。この小さな大きさを維持するのも、私たち三人でようやくなのに、この世界を維持されておられる大神の偉大さには感謝です」
天を仰ぐように、顔を上げ、手を組むナナイの顔は見えないけど、その行動で表情が見えるようだった。
サカエさんは無言で三人を見るように顔を動かした。互いに目元は表に出てないけど、おそらく、互いに見てるのだろう。
「素晴らしい。力を合わせれば、出来ることは沢山ある。いろいろ試していってほしい。今日も素晴らしかったよ。大神には、ちゃんと伝えておくからね。見せてくれて、ありがとう」
「ご報告ができて、嬉しい限りです」
三人の中で背の高い人物、ハーニが言葉と共にお辞儀をすると、一緒に他の人たちもお辞儀をした。
「さあ、帰るとしようか」
先程までいた会場に戻ると、神殿の人たちは一斉に片膝をつき、片手を床に、反対の手は立てた膝にあて、頭を下げた。
何の合図も無かったのに、ヒビキが現れた。
サカエさんはヒビキに手を伸ばしながら、「また来るよ」と言い、ヒビキの手を取った。
気づけば、北の神殿。
うん、慣れてきた気がする。
「着替えてくるよ。陸も着替えておいで」
一足お先に、とばかりに、サカエさんはホールを後にした。
頭でフードを留めていた紐を解いて、上着を脱ぐと、どこからかナーナさんが現れて、上着を持ち去った。
「あ、ありがとうございます、ナーナさん」
慌てて言うも、ナーナさんからの返答は無かった。
・・・一言も無しか・・・いや、無理に返答を貰おうなんて思うのは、良くない。彼女には彼女の都合というものがあるんだ。俺は俺、彼女は彼女。
「リクは強いんだね」
壁に寄りかかったヒビキが言った。
「見てたのか?」
「そりゃあ、ツカサが心配だもの。見てたよ」
ストーカーがいた。
「あんなことはよくあるのか?」
「まさか、初めてかな、あんな激しい人が来たのは」
「ヒビキ、あの人が話していた言葉は、何だ?」
ヒビキが首を傾げた。
「何って、今、ここで使われている言語だよ」
「日本語は使われていないのか?」
「そうだね、僕ら古いメンバーが使っているから、神の言葉として、神殿にいる者は勉強してるみたい。セイは習い始めて間がないから、まだ使いこなせないところがあるみたいだね」
だから、微妙な言い回しだったり、イントネーションが微妙だったりしてたのか。
「どうして、日本語が使われなくなるのを許したんだ?」
ヒビキが首を傾げる。
「許すも許さないも、ツカサが言ってたよ、言語は生きてるって、変化するものだから、それに付き合おうって」
「変化に付き合う、・・・そうか」
柔軟に、柔軟に。そうだよ、ヒビキだって少年じいさんなわけだし、不可思議ばかりじゃないか、俺がタイムスリップしたからって、ふしぎではない!大問題だけど。
「あ、おかえりなさい。リク、今からお暇ですか?」
階段を降りてくるセイが声をかけてきた、
「ヒビキが離してくれれば、暇になるよ」
「うわ、なんか嫌な言い方。そっちだって、質問してきたじゃん。じゃあ、分かった、勉強が一通り終わったら、リクはツカサの護衛ね」
「は?何言ってんだ」
「もう決定、じゃあね」
音も無く消えたヒビキにまだ物申したい気分だったが、堪えることにした。ここに居なくても、聞いていそうだからな。
「では、お暇になりましたか?」
俺より高い位置からの視線に頷いた。




