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一.《本当に異世界じゃないのか?》

「いやいや、いや、いやいやいやいや。ありえんだろ」


どう見ても、少年は十歳くらいにしか見えん!それに記憶を消した?どうやって?

え、なんだったっけ?あ!ロボトミーってやつ?脳手術で記憶を失わせた?いや、百年前に助かった人が何人居たのか知らないけど、大勢の人間の脳を手術することなんかできないだろう!なんなんだ!


「あり得ないって言われても、あり得ちゃうんだよね。」


「大勢を脳手術して記憶を操作したのか!」


「は?何それ?僕たちの仲間にお医者さんなんかいないよ。第一、脳を手術したら、記憶を弄れるの?あの時はそんな面倒なことしてる暇はなかったよ。出血なんて、以ての外。怪我ひとつしたりしたら、命取りの時間に更に命を危険に晒してなんになるのさ」


「いや、なら、どうやって記憶操作をしたんだ!」


少年の言葉しか情報がない中、俺は少年を疑っていなかった。普段の俺なら、疑うはずだ。俺は何故、少年を信じている?ムキになって、少年の言葉が真実であることを見つけようとしている?


少年はすこし困った顔をして、首を振った。


「まだ、説明できない。」


「なんだ、それ、2030年を救ってくれとか、勝手なこと言いながら、こっちの質問には答えられないのか?」


信じたいのに相手がこちらを信じていないのは、辛い。なんで、俺は少年を信じたいんだ?


「今は、出来ないだけだよ。君がこの世界を見て、現状を把握してくれて、それからなら、君も理解できると思う」


「俺が理解出来ない?」


少年が頷く。


「誰しも経験したことのない出来事を言葉で理解することは出来ない。って言ってたからさ、少し、僕に慣れてからなら君もちゃんと理解してくれるはずだって。だから、僕と一緒に見て回ろう?」


「国をか?」


笑顔で少年が頷く。


「実際に見て、体感して、それで君が僕たちを理解してくれたら、全てが話せると思う」


「それは君が百歳を超えて生きているのに少年の姿のままの理由とかもか?」


「そうだね。あ、でも、民は普通に55歳くらいが寿命だよ。長生きな人で70歳間近のおばあちゃんがいるけど、ようやくかな。100年前に生まれた赤ちゃんは50歳を超えなかったもの。当時は5歳を超える子供が7人に一人くらいだったからね。今は3人に一人くらいの子供が5歳を超えることができるようになったよ」


どうだ、凄いだろ、と言いそうな勢いで少年、おじいさんか?が話した。


「一つ、いいか?」


「何?」


「日本にあった大気を浄化する力ってなんだ?地震が起きたんだろ?壊滅的な規模の、だったら原子力発電所もやられたはずだ。核爆弾ではないにしろ、放射能汚染は免れない。だが。放射能汚染を浄化する装置なんてものの開発が進んでるなんて噂は聞いてない。俺が居た年からたった七年でできるはずかないだろ」


「ふふ、それこそ百聞は一見にってやつだよね?歩ける?よし、行こう、見に行こう」


少年に急かされて、靴を履き、部屋を出た。

そこは白い壁の廊下だった。


「窓がない、のに明るい?」


間接照明があるわけではない。壁そのものが発光しているとしか思えない。


「こっちだよ」


少年は部屋の入り口で立ち止まってしまった俺を振り返り、手招きしていた。


「待て、これはどうなってるんだ?」


「えー、また質問?それより先に、見ようよ。早くこっち」


少年はブンブンと手を振って、俺を急かす。本当に子供じゃないのか?

通路の明かりは気にはなったが、一先ず、装置を見なければ始まらないらしいので、少年を追いかける。

どこまでも続く廊下には、部屋の入り口がいくつかあったが、どれも衝立があって内部は見えなかった。

人の気配すら感じない。

まるで、少年と俺しか居ないような感覚だ。

だが、違うだろう。少年が俺を運べるはずがないのだから、俺をあの部屋まで運んだ人物がいるはずだ。

少し曲がった廊下の先で、少年が待っていた。


「ここを出るよ」


そう言って、追いついた俺の手を取る少年は扉も無いのに向こうが見えない入り口に入って行く。勿論、手を取られた俺も、だ。


白い。


煙があるわけでも無い。

霧のように湿気ているわけでも無い。


何かよくわからない白いものが充満した空間を少年の手に引かれるまま、歩く。

掴まれた手すら靄っていて見えないほどの中、暫くの間、歩いていた。おそらく、ひたすら真っ直ぐに。


正面が明るくなり、数歩歩くと白いものが急に晴れていく。

それでも、引かれるまま歩くと少年の姿が明確になった。

少年も俺の姿を確認したからだろう、少年は掴んでいた手を離した。


少年の向こうに広がる景色に目を奪われた。

見渡す限りの緑。建物の影すら見えない。

遠くに霞かかった山が見える。距離感は全く掴めない。平地も山も緑で、その隙間に川が流れるのが見える。

ここが俺のいた時代から百年後だと、誰が信じられる?

まるで、ジャングルだ。

文明など欠片も見えない。

人も本当に住んでいるのか、疑わしいほどに深い森が広がっていた。


「ほら、まだ移動するよ」


声の方を振り向けば、今出てきたばかりの戸口の隣にある階段の中程で少年が待っていた。

ふと、違和感があった。

直線で歩いたはずだ。階段とか坂道とか歩いた感覚はなかった。にも関わらず、建物は細長く空に聳えていた。


「あの、聞いてもいいか?」


「ん?」


「俺はこの戸口から出てきたよな?」


「そうだね」


「戸口から向こうは歩いたほど広くないように見えるんだが」

「それは平面に歩いて無かったからだよ」


ん?


「あれ?おかしなこと言った?さっきまで居た部屋があるのは、あそこ」


と言った少年が指した方向に顔を上げた。


随分と高い場所に平べったい物が見える。

「少年、俺は忍者ではないし、君も普通の少年に見える」

「少年じゃないよ」

素早い否定に、次の言葉を探す。

「ま、俺は普通の人間なんだ」

「うん」

「もしかして、垂直に歩いたのか?」

「当たり」

いたずらが成功したとでも言いそうな顔で少年が笑った。

百年も少年だと、なんでもありなのか?


「ツカサは箱を上下に移動させるような仕組みを作れば、誰でも行けるって言うけど、あそこは誰でも行けると困るんだ。あと、ツカサの言う仕組みは面倒くさい」


今の仕組みってエレベーターのことだよな。

エレベーターを知ってる人物がいる。その人物も生きてるのか?

「ツカサって誰だ?」


「ツカサはツカサだよ。僕たちに希望をくれた人。一先ず、降りよう。まだ先は長いよ」


少年に促されて、階段を降りる。

白い壁、白い通路。

屋外の階段から、そのまま屋内に続く階段を降りて行く。

先程とは違って、ちゃんと明り採りの窓が天井近くにある。外が見れないことには変わらないが、降りるにつれ、外の音が聞こえはじめた。

漸く少年以外の人間の気配が感じられた。

どれだけ降りたのか分からないが、階段は未だ続く。

軽い足取りの少年に対して、俺の足はそろそろ痛みを感じているのだが、まだ階段は続くのか?

15段ほどの段を降りては折り返し、降りては折り返し、クルクル回る。

なんでフロアが無いんだ!!

非常階段でも、フロアへの扉があるぞ!

広いとこに出たい、広いとこに出たい、階段、もう嫌〜!

突然、少年が振り向き、また、俺の手を取った。

「飛ぶよ」

は?

え、あそこにフロアへ続きそうな入り口が見えるのに?何するんだ、歩いて降りればいいじゃないか!


そう、俺はあと15段ばかりを子供みたく、飛び降りるのかと思ったのだ。

この少年が変なことをいとも、簡単にしていたことをすっかり忘れて。


目の前が一瞬で白くなる。

足の裏に感じていた圧力が喪失し、浮遊感に襲われた。と、同時に温かかった空気が変わる。

寒さを感じて再び足の裏の圧力が戻った。白い世界に明かりが差す。すると目眩がして足元がふらついた。

背中を誰かが支えてくれたため、倒れることはなかった。

「ありがとう」

振り向くと、長い白い髪の女性が無表情で立っていた。

見回せば、部屋は薄暗い。やはりどこから光源を取っているのか分からない。部屋自体が光を発しているかのようにも思える。それなりに広く、石材の部屋の所々に赤い色が施されている。


うん、さっきまで居た階段室はどこで、この人はどこから現れたのかなぁ?

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