十八.《変な人だよな》
「さて、陸はまだ落ち着きたいだろ、今日はここまでにしよう」
「はい、ありがとうございました」
元気良いセイに対して、俺はモヤモヤしている。
「サカエさん、次は、いつになりますか?」
「そうだね、明日は中央で用事があるから、早くて明後日かな」
中央?
「中央に用事があるって、人と会うんですか?」
「まあ、そうだね。ただ座ってるだけだけど。私を見るのを凄く楽しみにしてるみたいだから、年に一度、皆に生きてるよってお知らせ会?を催してるんだよ」
誰が、は関係ない。人を見たい。
「俺、着いて行ったら駄目ですか?」
サカエさんは片方の口の端を一度上げ、すんなりと了承してくれた。
次の日、迎えに来たヒビキが呆れた顔で見上げてきた。
「なぁんも無いよ?話も出来ないよ?フードを被って座ってるだけだよ?それでも着いて行きたいの?」
「人が見たいんだ」
「あー、・・・まぁ、ここは隠れてるからねぇ、仕方ないなぁ。ツカサの後ろで隠れててよ。暗がりなら、フードを浅く被ってても顔は分からないだろうから」
無料の交通機関、ヒビキの了承も無事に得ることができた俺は、何処とも分からない中央のとある建物のような空間にいる。
天井はさほど高くは無いが、よくよく見ると、柱も壁も岩を削って作られているようだ。反対側の出入り口まで、バスケットコートを縦に二面は取れそうな広さを掘るって、人力で、だと思うが、凄い労力だ。
掘られた空間は二方向に開けられた窓と入り口からの明かりが入り、歩くのに支障はない程度に照らされている。
サカエさんは初めて会った時に着ていた複雑な柄のフードを被って、一段高い場所に設けられたごっつい椅子に座っている。
俺はサカエさんの衣装より、簡素な作りの服のフードを被せられ、サカエさんの後方の暗がりに控えていること、常にフードは外さないこと、喋らないことを念押しされた。
チリン、チリンと鈴のような音が鳴ると、神殿の関係者らしく、ナーナさんと似たような服を着て、顔を薄い布で隠した人物が数人入ってくる。
サカエさんの前方、少し離れた場所までくると、片膝をつき、片手を床に、反対の手は立てた膝にあて、頭を下げた。
すごい、六人、全員が揃ってる。綺麗なパフォーマンスだ。
「大巫女に感謝を捧げます」
女性の声だ。
短い。が、長くダラダラと言葉を紡がれるより、素直な言葉の方が良い。
サカエさんが頷くと、彼女たちは同時に立ち上がり、サカエさんの前方の左右に分かれて並んだ。その分かれる時の動きも、ピシ、パシっと綺麗だった。見せ物?とにかく、綺麗な動きだった。
チリンと一度、鈴のような音がどこからか鳴ると、入り口に人の影が見えた。
一人が入ると、後ろの影は入り口で止まった。
最初の人は小柄で、フードを後ろへ下げ、一礼すると、ゆっくりと進み始めた。
近づくにつれ、人物の様相がはっきりしてくる。
うん、日本人には見えない。
半ば頭皮が見える髪の毛は茶色っぽく、顔の彫りが深い。影になった目の色はまだ分からないが、肌はすごく焼けた色をしている。
農家さんかな?
サカエさんから大凡五メートルほど離れた場所で、立ち止まると、手を合わせて拝んだ。
そして、何も、言わずにUターンしていった。
ん?
次も小柄な人物だ。大きな帽子を脱いで、ゆっくりとやって来る。髪は金髪で、のっぺりとした顔立ちで、目は、開いているのか分からない程に一本の線に見える。
また、サカエさんを拝むと何も言わずにUターンした。
その後も、日本人には見えない顔立ちの人や、黒ではない色の髪の毛の人、でも、大抵の人が小柄だった。そして、みんな、サカエさんを拝んで出ていった。
拝むだけ?会話しないんだ。
サカエさんも声掛けないし、これって、本当にただサカエさんを見る会だった。
サカエさん、寝てるのかな。少し頭が落ちてるような・・・
突然、さっきまで静かだった空間に足音が響いた。
入り口を勢いよく入ってきた人を追いかけてきた神殿の人たちが囲った。
囲いをくぐり抜けようと、足掻く人は、何かを喋っている。
フードが外された。黒い髪が垂れ落ちる。
掴まれたフードごと、脱ぎ捨て、走り寄る。
サカエさんの前に控えた神殿の人たちが、通せんぼをしている。
そこで、大きな声が上がった。男の声。初めて聞く言葉、何を言っているのか、全く分からなかった。英語でもない、韓国語でも、中国語でも、勿論、日本語でもない。イタリア語に近い気もするが、残念ながらイタリア語は勉強してない。軽い挨拶程度だ。
サカエさんが、ゆっくりと立ち上がった。
そして、男と同じような言葉で喋り始めた。
襲いかかりそうな程に暴れる人物を神殿の人たちは一生懸命に押さえようとしている。
複数の人にかかっても取り押さえられないとは、なんて怪力。
このままだと、どっちも危ない。
動くなっていわれたけど、緊急事態だからいいだろ。
素早く台から降り、暴れる人物の捕まえられていない右手を逆手に掴み、捻る。一瞬怯んだのを感じたので、緩めて、回転。あ、神殿の人を一人、巻き込んで吹き飛ばしてしまった、ごめんなさい。
呻き声が聞こえたが無視、そのまま、抑え込む。
感情の籠らない声で、サカエさんが何かを告げる。
急に抵抗が無くなった。
「陸、もう大丈夫、離してやってくれ」
そう言われても、いきなり攻撃されるのはゴメンなので、身体を離して、最後に押さえていた手を離す。
サカエさんを背に立ち、様子を伺う。
男はゆっくりと立ち上がり、何かを喋る。
それに応えて、サカエさんも喋る。
うん、分からない。
何度か会話のやり取りをして、男は一礼すると、立ち去った。あ、ちゃんとフードは回収していた。
二人、神殿の人が男の後について、出ていったが、残りの人たちは、サカエさんの前に横一列に並び、膝をつき、先程の姿勢をとった。
「誠に申し訳ございません、大巫女を危険な目に合わせたこと、償わせていただきたい」
償う?
「大丈夫、全く危険ではなかったよ。見た通り、護衛が居るからね。それより、君たちに怪我はないかい?無理はしないようにね」
サカエさんの言葉にみなさんはさらに頭を下げた。
「さあ、さあ、頭を上げて、今日は何を見せてくれるのかな?楽しみにしていたんだ。時間は有効に使わないとね」
歩き始めたサカエさんの後ろを着いて歩く。
端に居た小さい体躯の人物が走り寄ってくる。
「大巫女さま、本日は私が担当いたします」
「よろしくね」
後の人たちは俺の後ろをゾロゾロと着いてきた。
うん、若干、視線が気になる。
空間を出るとそこは岩山だった。
そして、水の音。
目を向けると、小さな池が木に囲われるようにして、あった。
そこ以外は砂地にポツポツと生える木と整備された通路が先にある建物まで伸びていた。
サカエさんが歩くのを横目で確認しながら、歩くのは止めない。
視界に入ったその池が、凄く大事なものに見えた。




