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十七.《漏れた言葉に、笑い声がした。》

お久しぶりです

生きてます

生産活動に向けるエネルギーが足りませんでした…

 俺とサカエさんを連れ戻ったヒビキはそのまま消えたので、必然的にこの部屋にいる残りの人はサカエさんだ。

 ヒビキに人の心を読むなと言った筈のサカエさんは、平然と俺の心を読んでいるよな。

 力?力は使ったらいけないんじゃ無かったですかね。

「くっくっくっ。さてさて、星は陸に興味津々だが、ひとまず、勉強は何をしていたのかな?」

「はい、これを読んでいました」

 セイが差し出したのは、絵本。凄くボロボロになっているが、背表紙はまだしっかりとしているし、これまで大切に読まれてきたのだろうと感じた。


「ととろかげとぞうじい、か、読めたかい?」

「文字は読めました。でも、意味は分からない」

 ?どう見ても、平仮名表記のタイトルだ。就学前、または小学校低学年レベルの絵本のはずなのに、意味が分からない?どういうことだ?


「何処が分からなかった?」

 セイは絵本を床に置いてページを捲る。

 一ページ毎にそれなりに文字数がある。小学生向けの本だな。

「ここの、ととろかげが一人になって泣いてるところとか、ぞうじいが周りの皆んなを怒るところとか、最後にみんなが仲良くなりましたって終わるところ」

「どうして分からないと思った?」

 セイは少し考える様子で、目を瞑り、首を傾げ、目を開いた。

「みんな一人、どうして泣くのか分からない。周りの人とととろかげが違うのは当たり前。ととろかげは人ではない。人と違うことが何故悲しむことに繋がるのか分からない。周りも、違うからと、ととろかげに石をぶつけたり、悪い言葉をかけるのも分からない。分からないけど、それが周りには普通のことだった。それなのに、ぞうじいが怒ったから、ととろかげへの態度が変わるのも分からない。難しい」

 ん?

「星、椅子に座ろう。陸はまだあのままのようだからね」

 そうですね、もう少し横になっていたいです。

 でも、セイの発言も気になりますよ。

 モゾモゾ起き上がり、胡座をかく。

 二人は椅子に向かい合って座っていた。

 サカエさんを見るセイに対して、サカエさんは言葉を選んでいるようだった。

「力が無い人たちはとても弱いよね」

 頷くセイ。

「一人ではできないことは、力を合わせて複数人が作業をするんだ。そのために、同じ目的を持つ必要がある。同じ目標の下、何かしらを成し遂げると仲間意識が芽生えて、それが仲間とは異なるものを排除する方向に繋がる。これが、お話にでてくる大半の人たちにとっての普通だった。異なるとろろかげは皆から排除される対象だ。とろろかげは皆が仲良くしているのを見て、仲良くなりたいと思った。一緒に遊びたいと思った。だが、皆はとろろかげを仲間にはしたくないと思った。何故だと思う?」

「違うから?」

「大きな塊はその塊を維持するために、何かが必要になる。始めは仲間意識、でも、その仲間意識も目的を成せば、緩いものになる。塊が崩れていく。別の仲間意識を作り上げるには、エネルギーが必要だ。そのエネルギーを生み出すことは大変だから、もとの仲間意識を維持しようとする。そのために、違うものを作る必要がでてくる。仲間意識を強くするために、仲間とは違うものを用意する。仲間では無いものを感じて、それまでの仲間をより、強く仲間だと感じることができる。それは仲間という塊を維持するに必要な意識」

 無言でセイが手を挙げる。

「はい、星さん」

「意味がないです」

「はい、もう少し詳しく説明してください」

「仲間意識が崩れると、どうしていけないのですか?別の目的に向けて別の仲間を作ればいいです。よって、仲間とは違うものを用意して、それまでの仲間意識を強める必要はないと思います」

「ふふふ、根本的にこの話を否定してきたな。では、別の目的をみんなが持てなかったら?それによって、一人になったら?弱い人は一人になることを極端に怖がる。一人では、大きなことが出来ないから。それだけでない、もしかすると、生死に関わってくることもあるかもしれない。だから、仲間を求める。その仲間を維持したいと願う」

「それは、手助けをする人が居ない、ということですか?そもそも、仲間とは生きている者のことでは無いのですか?一人で出来ないことはあります。それを助けてもらうのは、お互いの為になることです。助けることが出来る者が助けないとは、なぜですか?それは、不思議なことです。理解できません」

 ちょっと不自由な感じの日本語で、セイが一生懸命、論議している。

 セイが読んだのは、とろろかげが人とは違う見た目で、仲間はずれにされているのをぞうじいが嗜めて、仲良くなりました、めでたしめでたし、って話かな?仲間外れねぇ、その感覚は、俺でもよく分からない。けど、俺が居た時代はそれが普通に感じる世界だったかなぁ。普通なのに、俺にはよく分からない感覚だった。

 そして、今も、そうなんだ。いや、むしろその傾向は強いのか。

 村八分ってやつかなぁ。


「星、君が理解できなくても、この世はそんな感じなんだ。どうやったら、君の感覚に皆が共感できるようになるだろうねぇ」

 セイが難しそうな顔で、黙ってしまった。

「色んな考えがあっていいんだよ。どれを選択するかは、その人次第だけど、今は、その選択肢も知らない人が多いだろう。閉鎖的な世界だ。どうしたら、いいと思う?」

 お、口が尖ってきた。あひるみたいだ。セイには、悪いが、ちょっと可愛いかも。

「ツカサは意地悪だ。いつも、その宿題を出す」

「期限は設けてないだろ?いつまでも考えろ、時間は有り余るほどあるんだ。ゆっくり、色んな経験をして、そこから、導き出せばいい。今回はこんな、変化が居るわけだしな」

 と、サカエさんは、俺を見た。

「陸と話をしなさい。色んな話を、そして、学びなさい。良いことも、悪いことも。陸は広い世界に居た。こんな閉鎖的な世界ではなく。あらゆる物があり、人が居て、そう、皆が質の高い生活、暮らしを求めている、そういう世界だった。そうだろ?陸」


 どう反応すればいいのか。

「話をしてくれるのですか?」


 キョトンとした顔でセイが問うてきた。

「っ、話すのは、大丈夫だ。」

「星、あまり無理をさせないようにね」

「はい、ちゃんと、予定をきいて、訪ねます」

 サカエさんが、笑顔でいい子だ、と言った。


 今がどれほど閉鎖的なのか、まだよく分かっていないけれど、暮らしてきた時代と異なることは分かる。

 水道みたいなものはあるけど、貯水槽に水を溜めておかないといけない。お風呂は蒸し風呂だった。

 電気は無いから灯りのほとんどはランプ。廊下の間接照明は外の明かりを取り入れる仕組み。暖房は床暖房のところもあるけど、殆どが暖炉。

 因みに、トイレは穴が開いていた。怖くて覗けてないが、多分、汲み取り。


 蛇口からお湯が出る。

 スイッチ一つで明るくなる。

 トイレは水で流せる。

 服は既製品、縫製も機械、靴は底が厚くて石コロなんか気にならない頑丈な作り。

 コンビニで色んなものが直ぐに手に入る。

 暇だからとゲームに勤しむ。

 ここは、そんな便利な場所ではない。

 生きるために何かしら動かなければ、次の日に、自分が、周りが困る。

 暇を持て余していた俺にサカエさんは落ち葉を集めることを頼んできた。建物の周囲に三箇所、集める穴がある。森に雪が積もる前に集めて、次の春に畑の肥料にするのだそうだ。

 それでも、そんなに時間は掛からなかった。朝と夕方に集めても、暇になったから鳥とか馬を見ていた。

 気配はしても、誰も声をかけてこないから、鳥と馬に声を掛けていたが、完璧、変な人だよな。

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