十五.《格好良く決められてしまった。》
「サカエさん、謎だらけです」
「くくく、いいじゃないか、退屈しなくて」
少し歪んだ笑みを浮かべるサカエさんの言葉は謎だらけ。全く話にならない。仕方ないので、話を戻そう。
「それで、話を戻しますが、神殿でお仕事されてるナーナさんも力があるんですか?」
ん?サカエさんが、更に悪い笑顔になった。
「神殿に使える者達は選定されない。殆どが口減らしだ。中には力のある子もいる。だが、響樹や巫女たちの側仕えは力のない子でなければいけない。ナーナは力を持たない。それは、こないだの席で分かっているだろ?」
口減らし。聞き慣れない言葉。だが、意味は分かる。他を生かすために、弱くて使えない者を捨てるってこと。
普通に食事が出てきてたけど、それは此処が神殿だからなのかもしれないな。
「こないだの席?」
「下手に力があると、眩しいんだよ、我々は」
「あ、そう言ってましたね。つまり、自衛出来ないから近くに居られない。逆に自衛出来るほどの力がある子はいないってことですか?」
「近くに居ないだけで、自衛できる子は居る。それは次代の女神候補だ。自衛と言っても、女神になると、使える力が限られてくるから、眼を瞑ることでしか、自衛は出来ないがね」
「制約、ですか?」
「女神の力は大半が結界の維持に使われる。私や響樹のように、力を抑えるための力は敢えて使わない。こないだのように集まる時は別として」
「因みに今は?」
「抑えてない」
「ナーナさん以外の方が居ないのは」
「眩しいからもあるが、こないだ響樹が言ってただろ?我々を見てはいけないと思っているんだよ」
ふと、寂しそうに見えた。
「それって、寂しいですね」
言うと、はっとした顔でサカエさんが俺を見た。
「この三日ほど、俺、殆ど人と関わってなかったんですよ。ナーナさんは質問しても、会話のトスが続かないし。食事も殆ど一人だったし。寂しいなって思ってたんですけど、たった三日で寂しいなって思うのに、サカエさん達はもっと長い間、そうなんですよね。どうにかならないんですか?」
「そうだな、どうにかしようとしたことが無いな。ただ、結界の外の世界をどうにかしたくて、そんなことにまで、気が回らなかった」
サカエさんがふわっと笑った。
「やっぱり、陸は風だ」
「風?」
「変化をもたらす風。停滞した世界を動かしてくれ」
何か大事なことをサラッと言われた。
「・・・ひとまず、先に勉強ですよね」
「そうだな」
サカエさんは賛同してくれたけど、俺は分からないことを後回しにしてみただけだ。
「立ったままも疲れるだろ、部屋へ行こうか」
サカエさんの言葉にナーナさんが歩き始める。
その後ろをサカエさんが歩き、促された俺、続いてセイが並ぶ。
石畳の廊下は幅が広い。五メートル以上はありそう。高さもある。石壁からアーチを描いて形成する天井に間接照明があり、程よい灯りが床まで届いている。
石造の壁を初めて見た時は、行ったことはないが、写真とかで見たヨーロッパのお城みたいだなと思った。間接照明は違うけど。
廊下の突き当たりにある部屋に入る。入り口に垂れる布を分けて抜けると、石壁の厚さ分の空間があり、その奥にまた布がある。それを抜けると温かい部屋に入った。
「そこで外履きを脱いで。室内履きは右の棚にあるから」
サカエさんに言われて、入り口直ぐの足元のマットの上で履物を脱ぎ、靴を揃えてサカエさんの靴の横に並べて置いた。意外と冷たく無い石の床に立ち、棚にある履物から大きめの物を選んで履いた。
部屋には幾つもの椅子やソファがバラバラに置かれていた。
サカエさんが一つに座るとセイも近くの椅子に座った。俺は、サカエさんの向かい側の椅子に腰を下ろした。
気づくと、ナーナさんが居ない。
「さて、今から話すことは、女神になった者しか知らないことだ。外では話さないように。陸、いいね?」
「それは、消された記憶のことですか?」
少し目を見張るとサカエさんは息を吐いた。
膝の上に肘を置き、組んだ手で額を二、三度押してサカエさんは顔を上げた。
「響樹はどこまで話した?」
どこまで?ベクトルが分からないな。時間軸?程度?分からないから、ヒビキとした会話を伝えてみる?
少しの時間、思い出すのに目を瞑り、目覚めてヒビキと話したことを引き出しから取り出して、サカエさんに話した。
そう、あの会話をしてから、まだ三日しか経っていないのに、もう随分と経つような気がする。
俺が未来に来たと言われたが、まだ信じてはいない。証拠は何も無い。百年生きた?あり得ない超能力を見ても、ヒビキ達が永い時間を生きているとは、信じられなかった。
信じたところで、何かが起こる訳でも無いが、信じていないことで何かの枷になる気はしている。
無条件で信じようとする俺と、証拠を求めて足掻く俺がいる。
証拠が欲しい。
俺は、信じたい。
「ああ、陸。お前は、そんな明け透けで、本当に、どうしようもないな」
ん?何が明け透け?
ヒビキとの会話を話し終わった俺をサカエさんが見つめる。
あったことを話しただけなのに、何が明け透けなんだ?
「ふふふ、はっ、はあっはっはっはっ、はあ、もう、いじらしくて可愛いねぇ」
突然に笑い、よく分からない評価をしてくれたサカエさんが立ち上がり、二歩ほどの間隔を一歩で詰めて俺に左手を差し出してきた。




