0.《異世界召喚?》
連載、始まりました。
・・・、選択するキーワードに悩みました。
一つしか選択できない、いや、
選択出来るキーワードがあって良かった。
目が覚めると、見知らぬ天井。
・・・
一先ず、落ち着こう。
起き上がり、横たわっていたベッドに腰掛ける。
そこで、深呼吸。
さあ、俺は何をしていた?
いや待て。
俺は、誰だ?
鬼頭陸。
何歳だ?
21になったばかり。
よし、覚えてるな。
では、俺は何をしていた?
大学のゼミで先輩の卒論の手伝い。
手先が器用だからと、手を怪我した先輩の代わりに設計図の通りに配線を変えていた。先輩が制御用のタブレットを手にしたのは見えた。
・・・そこから記憶がない。
そして、ここは何処だ?
見たこともない造りの部屋だ。
壁は土のようだが、照りがあり、前に見た泥だんごのように綺麗だ。
腰掛けたベッドのマットは厚みが無いのに程よい弾力性があって、気持ちがいい。
シーツも綺麗だし、床に砂や埃もなく、衛生的だ。
俺の靴が揃えて置かれているし、着ていた服もそのままだから、俺に危害を加えるようなところでは無さそうだ。少なくとも、今は。
考えながら、動かしていた体も異常が無い。
さて、ここが日本ではないことは確定的だ。
では、ここは何処か。
勿論、あれだ
異世界召喚。
何てことだ!
この俺が?異世界召喚?
すっげー!
じゃあ、話によくある美人のお姉さんが出てきて、この世界を救って〜とか言われるのか?
えー、何処よ、美人のお姉さん!
目は覚めましたよ!早く出てきて〜。
って、マジか?マジなのか?
いや、少し落ち着け、落ち着けよ俺。
顔を手で覆い、そのまま髪をかき上げた。視線の先は部屋の出入り口。そこに人が立っていた。
「ちゃんと目が覚めたね」
そこに居たのは、美人のお姉さんではなく。ましてや、女の子でもなかった。
黒い髪の美少年。
もしかして、この少年が俺を召喚したのか?
「いきなりなんだけど、君、何者?」
言葉が分かる?
何でだ?寝てる間に何か飲まされたか?それとも、魔法か?
どう見ても、少年の衣装は異世界っぽい。
肩口で切り揃えられた髪の左横の一総を円筒状の髪飾りで纏めている。
膝丈まであるベスト、中の七部丈のシャツも同じ程の丈があり、布地でウェスト部を縛ってある。薄手の生地のズボンにサンダルのような履物。左の手首には髪の飾りと似たデザインの腕輪があり、他に装飾品をつけてはいない。
知らない内にじろじろと見ていたのか、少年が訝しげな顔で見ていた。
「ねぇ、言葉は分かるよね?」
「なんで、言葉が分かるって分かってるんだ?魔法か?」
少年は至って冷静に。
「だって、君、日本人でしょ?僕、日本語しか話せないし」
「え?」
「ここは、かつて日本と呼ばれていた土地。君の服装は昔の日本人の服装だと聞いた。君はどうやって、未来に来たの?」
少年の言葉は信じられないことだった。
「未来?ここが?かつては日本だったって?いや、いや!むしろ異世界召喚がシックリくるだろ!」
少年は首を振る。
「イセカイショウカンが何なのか分かんないけど、ここは君の居た時代より未来だよ」
「俺が居た時代?なんで分かるんだ?」
少年は俺の前に背もたれのない椅子を移動させ、腰を下ろした。
「どこから話せばいいのかな。僕にも分からないことがあるけど・・・君は西暦何年に居たの?」
「・・・2023年だ」
少年は少し考ながら、指を折り曲げ何かを数えた。
「ということは、今から約百年前くらいだね」
「百年?じゃあ、ここはどっかの田舎なのか?」
「イナカ?ごめん、僕の知らない単語だ。イナカって何?」
驚いた。百年も経つと無くなる単語があるのも分かるけど、まさか田舎が使われなくなっているとは・・・さて、どう説明すればいいものか。・・・悩む。
「田舎・・・人口密度が高い都会とは対照的に人口密度が低くて、農家とか食物関係の生産が主な仕事の土地、みたいなとこかな」
「人口密度が、低い?ここはどの地区も人口密度にばらつきがないところだし、どこでも自給自足だからね、イナカでもトカイでもないかもしれない」
どうなってるんだ?ドーナツ化現象も過疎化も無縁なのか⁉︎未来の日本(あ、もう無いんだったか)はあの最大値の大問題を攻略したのか!素晴らしい。
「どうやって、人口密度を均一化したんだ?自給自足の生活が普通って、何でだ?生産職はどうやってるんだ?職人は居ないのか?かつては日本ってことは、今はどこの国だ?あれ?だとすると、母国語が日本語っていうのはおかしいよな」
「痛い」
「あ、ごめん」
俺は掴んでいた少年の肩を離した。
「ひとまず、僕の話を聞いてから、質問してくれる?話が進まない」
「あぁ、分かった。じゃあ、頼む」
少年は一つ息を吐いて、俺を見た。
「君に話すことは、全て事実だ。だから、落ち着いて、冷静に聞いて欲しい」
「あ、あぁ、静かに聞くよ」
俺の言葉に少年は頷き、手を組み合わせて、口開いた。
「西暦2030年7月21日。君の知る世界は滅んだんだ」
いきなりの衝撃発言に、俺の口が思わず開いたのを見て、少年は自分の口に指を当て、静かにと示した。
「いいから、聞いて。原因はね、憶測でしかないんだけど、世界にあった核爆弾が一斉に発射もしくは爆破されたんだと思うんだ。その一つが日本近海のプレートを刺激した。地響きと共に、日本は各地で大規模地震が発生し、建物の倒壊や火事だけじゃない、津波が各地の海岸を襲い、本当に日本は壊滅した。日本はそれだけだった。他の核爆弾を保有する国、もしくはその周辺の国々の土地は核爆弾による放射能汚染が深刻だった。保有していた核爆弾が爆発したことで、プレートになんらかの変化が起きたんだろう、日本と同じく、世界の全てで大規模地震が発生していた。地震の発生とともに、活火山が一斉に噴火し、それに誘われたかのように休火山までも噴火を始めた。あっという間に大気は火山灰や放射性物質に汚染された。空は黒雲に覆われ、太陽の光は届かず、黒い雨が降り続け、地球は人が住めない場所へと急激に変化したんだ。ただ、日本には運良く、大気を浄化する力があったから、生き残った人たちはその浄化した地域で暮らし、今に至る」
少年は俺から目を逸らさず告げた。
「この星にある国はここだけだよ」
あんまりな話だ。
俺が異世界召喚されてた方がなんぼかいい。
いや、今はこの少年の話しか事実確認が出来ない。本当にあったことなのか?
確証が欲しい。
「ただし、僕以外に約五人しかこのことは知らない。他の民達は、あまりのことで、適応できなかったり、混乱したりして大変だったから記憶を消した。君は過去から来た人だから、真実を話したんだ。だから、もし、過去に戻れたら。2030年を止めて欲しい。あの悲劇を起こして欲しくない」
ん?サラッととんでもないことを言ったよ。記憶を消した?
「他の民達は知らない?記憶を消した?どういうことだ?何故君は知ってるんだ?」
「うん、僕の仲間が消した。僕はその頃から生きてるメンバーの一人だから」
自分の予想とは違う答えだった。
「こんな形だけど、年齢は百歳を超えてるんだ」
目の前の少年は和かに笑いながら、可愛らしく小首を傾げて見せた。
本当にここは異世界じゃないのか?
不定期更新です。
起伏のない物語ですが、お付き合いくださると、嬉しいです。
構想は最後まで出来てます。
後は書く、じゃない、文字を綴るのみです。