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男装竜騎士  作者: 根尾 彼方
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 「おはようございます」


 「アザストレクト」


 ふと朝の挨拶に呪文で返してしまった。

 いつもの癖だ。


 「ユエル様。それは簡単に唱えていい呪文ではありませんよ」


 ヒュンヒュンと昨日案内してくれた側近さんに呪文がかかる。

 朝の挨拶代わりに幼い頃から口にしているこの呪文は、祝福の呪文であるが……


 「あれ、すごい効果かかってませんか?」


 村だとこんなに大袈裟に祝福はかからない。毎日やってるから、上書きされる形でゆったり馴染むようにかかる。


 「え、えぇ。そうですね。王からお聞きしましたが、竜騎士を目指すなら他の人にはお止めになってくださいね。ここまで軽々やられますと、第1級魔術師として魔術院配属にされておいおい神官勤めにされてしまいます。」

 「そ、そうなんですね。気をつけます。」

 

 なんだろう。

 この側近の人は何やら全てを知っているような気がした。


 「ユエル様の後見人は私の親戚から、推薦状は私から出すようにとの指示でした。また、身分証明書も王が早朝に発行してくださいましたので、お使いください。」


 身分証明書は村にいた頃には必要のなかったものだ。


 「アシコルア・ユエル・アザゼルシア」


 そこにはそう表記され性別は男とされていた。


 「アザゼルシアは私の遠くの親戚一族の名前で、そこの養子に入れる形になっております。」

 まず名前から説明してくれたが、こんな長い名前、村にいた頃は聞いたことなかった。


 「あなたが、魔術の隠された村からいらしたことは陛下からお聞きしております。そこではあまり長い名称や、本名は使っていないそうですね」

 「確かに、みんな人に興味ない私でも覚えやすい名称でした。」


 側近さんがふと笑った。


 私は、ずっと「ユエル」という名前で呼ばれてきたけど、本当は違ったのかもしれない。


 「いえ、何でもございませんよ。いえ、さすが、あのお母様のお子様ですね」


 「母上を知っているのですか!?」

 私はとても驚いた。


 「えぇ、私は勇者パーティーの神官をやっていましたからね」


 確かに、国王は元勇者だから、側近がパーティーの一人で神官であるのも頷けるし、元魔王の母を知っているのもわかる。


 「もしかして、母上のことはみんな知っていたりするのですか?」


 「いいえ、封印されたというところまでは公にされていますが、身篭られたことは知りませんよ。そもそも公では魔王は男性です。」



 ということは、私の存在は国によってやはり隠されていたようだ。

 そして、私が人に興味がなさすぎて、どうも村の外での常識を把握できていないことがよくわかった。

 魔術に関係あれば少しくらい興味あるはずなんだけどな。


 「すみません、えっと……側近さん?」


 「私としたことが、名乗るのが遅くなり申し訳ございません。私の名前は、リューシン・グラ・ネストラスです。お気軽にグラとでもお呼びください。宜しくお願いしますね」


 「グラ、さん。お恥ずかしながら、私は村の外の常識をあまり知らないようです。この国の常識を知りたいのですが、もしよろしければ本などを貸していただけないでしょうか」


 ペコッと頭を下げる。

 側近さん改め、グラさんはにこやかに頷いて。


 「かしこまりました。良い本を探してきましょう。竜騎士選抜試験まではあと一ヶ月ほどございます。時間のあるときは街などに行ってみて実際に肌で感じてみましょうね。 ゆっくり慣れてください。」


 村では教えて欲しいと願っても、大体はできないから頼んでいるのに見せびらかすように魔術を使われてコテンパンにされるのが普通だったから、すごく優しいと感じた。


 「ありがとうございます。……フラシアロ」


 ここでは村で挨拶代わりに使っていた呪文はあまり使わないとさっき習ったから、下級魔術を唱えておいた。


 「村では、そのような魔術で挨拶のようなものをする習慣があるのですか?」


 「はい。本当は呪文の一種と言われる祝福を使っていますが、先ほど使ってはならないと学びましたので、一般教科書と書かれたものの下級というところから転用しましたが、違いましたか?」


 「……いえ、そのような習慣はこちらではありませんよ。すべての人が使えるほど魔力を持ってはいませんから。」


 「なるほど。わかりました。逆に失礼にあたってしまうのでしょうか」

 「そのようなことはございませんが、祝福を行うのはそれこそ神官の役目でございます。神官から竜騎士に向けて戦場や討伐に赴くときに行うのです。」


 「そのような文化なのですね。学習しました。」


 「では、朝食はいかがいたしましょうか?」


 グラさんは時計を確認して言う。


 「お腹いっぱいなので必要はありません。ここでは、食事はどのように行うのでしょうか?」

 

 自分の村では、1日3食他の家族は食べていたが、母と私は基本魔力が満たされておりお腹が空かないため、見目が良いものを見て少し口にしていた程度であった。


 「やはり、魔力量が桁外れなのは遺伝していますね。食事は魔力の元の補充ですから、必要ないのはわかりますが、ここで基本食事を必要としないのは聖霊の瞳を持つ陛下とそれを色濃く受け継いだ王太子殿下のみです。私も他の皆様よりは少ないですが食事を必要とします。結界の維持に食われていくので。」


 それから、少し間を空けてグラは言う。


 「竜騎士を目指すのでしたら、竜と出会って、竜が馴染むまで魔力を抑える努力をした方が良いかと思います。」


 「わかりました。食事はどちらでとればよろしいのでしょうか」


 「お客様ですし、慣れないこともありますでしょうから、今日はこちらにお運びしましょうか?それ以外ですと王族とご一緒か使用人用の食堂となります。」


 王族と一緒とか、意味がわからなすぎた。母上封印したご家族とご一緒はちょっと嫌な気もするし、普通に考えて堅苦しそうで無理だった。


 グラさんにここで食べる旨とお礼を言って少し待つと、村では見慣れない種類の食べ物がたくさん並んでいた。グラさんが侍女さんと思われる人に伝令したのか、女の人が扉の前まで運んできてくれた。


 なんだか、村より質素で固そうだ。


 少し顔をしかめてしまうと、グラさんは不思議そうにこちらを見ている。


 「魔力の質が気に入りませんか?」

 「はい。」


 正直に言いながら、自分の魔力を使って村で自分が食べていたものを作り上げる。

 お皿も魔術で編み上げてその上にコトンコトンと落とすと、グラさんがはそれをまじまじと見ていた。



 「王宮の料理人もお手上げですね。これは、これは美味しそうで」

 「ん〜でも、これに慣れなきゃならないのですよね。」


 とりあえず私は、出されたものを食べることにした。

 食べる前の挨拶は、村の人たちは何か言っていた気がしたけど、母と私はあんまり食べないし呪文以外忘れてしまった。






 (素材のないところから、このようなお菓子を作るとは。さすがとしか言いようがない。

 しかもお皿とはいえ、どこからか出した素ぶりもなく、創造魔法を簡単に使えるあたり……

 ユエル様は規格外だと思っていたがここまでとは。)


 と心の中でグラは呟いた。






 食事と言うものを他人とあまりしたことがない私は多少戸惑いながら、相手のペースを伺い、出されたものをしっかり食べ終った。





 ふと机の上を見ると、さっき編んだお皿とお菓子があった。

 さっきじっとグラさんがそれを見つめていたし、チラチラ気になっているように見えた。


 食べたいのかもしれない。と思い、こんなものでいいのか不安になりながらもすすめてみることにする。

 「あ、もしよかったらどうぞ。」


 「よ、よろしいのですか?」


 グラさんはさぞかし驚いたように私の方を見る。


 「はい。食事も終わってすぐですから、保存ができるようにしておきますね」


 そう言って皿を袋へと変形さていく。

 いつ食べるかわからないし、保存だから、時間止めた方がいいよね。



 「この袋の中は時間を止めています。ですので、腐らないと思いますが、早めにお召し上がりください。」





 「ありがとうございます。」


 少しの沈黙の後そう言われた。






 

 ……何かまずかったのかな?


時間止める袋とか、普通はそんな簡単に作れません。でも、元魔王さんは簡単にやってしまうので、ユエルさんの基準がかなりずれてます。


そろそろ試験受けて欲しいのに、朝ごはんのんきに食べて終わったところで今回は終わりですね。次の話でそれから一ヶ月後の話とかしたくなってきます。でも、ユエルさんが「街」を知る過程や、今まで人に興味なかったのが興味持ったり、狭い場所から外に出た人の移ろいが読みたいので、しばし我慢です。

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お読みいただき有難うございます!
こちらも覗いていただけたら幸いです。完結済みSF風小説です。タイトルをタップすると作品ページへ飛びます。
『不老不死の薬を作った少女』
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