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村を出ました。
いきなり母に飛ばされた場所は、なんと王の寝室だった。
困惑の表情の私、そして、目の前の王。
「お、お初にお目にかかります?」
動揺しすぎて「?」がついてしまったし、きっとこれまずいんじゃないかな。
私、どうしよう逃げるしかない?
王は私とカバンを見て涙ぐみ始めた。
「よく来てくれた。君は、ユエルかな?」
「は、はい。その通りでございます。母が転送してくれた場所がこちらでした。お休みのところ失礼しました。」
無礼を誤った上で、慌てて消えようすると王に引きとめられた。
ん?……何で名前わかる?
魔術の類かな、習いたい。いや、そうじゃない、これはピンチだ。さっさと逃げなければ。
「ま、待ちなさい。君は村から私に会いに出てきたのだろう?」
「?いえ、竜騎士選抜試験を受けるためです。」
ここで、私は竜騎士選抜に後見人や身分証明書が必要なことを思い出し、元魔王な母のことだから、王に頼めってことかな?と考えた。王って確か元勇者だったもんな。きっと知り合いだ。とあたりをつける。
「あ、後見人を探しておりまして、後身分証明書もないのですが、王にお願いすることは可能でしょうか。」
さらっと言ってしまったが、これ、かなり無礼かもしれない。後から少し焦る。
「……そ、そうか、君女の子では試験は受けられな……」
言われるやいなや、幻術を使った。
「これで大丈夫でしょうか。」
王は、聖霊の瞳と言われる魔眼を光らせて私を観察し始めた。
「これは、私の魔眼を持ってしても見破れん。だと」
「竜騎士になるため、努力いたしました。」
ほぼすべてのことを見抜くという聖霊の瞳を持ってしても見破られなければ、多分これを見破れる人間はいない。
「身分証明書の件請け負った。後見人は私だと目立ちすぎるから、他を探そう。もう少し顔を見せておくれ」
顔に何かついているのだろうか。
疑問に思いながら顔を近づける。
「ふむ、覚えた。学園に入るまで余っている客室を貸そう。少し待っておれ」
静かにベルを持ち、王はリンリンリンと三回ならす。
側近が入ってすぐに驚いた表情をするがすぐに引っ込める。
「御呼びでしょうか。」
「あぁ、この子に空いている客室を貸してやっておくれ。後、しばらくの間面倒を見るように。」
すっと側近はこちらを見て、また王の方を見て頭を下げた。
「かしこまりました。」
王に促されてその人についていく。
それにしても、この王様、物語で見るより柔軟で優しいのだな。と思いながら側近の人についていった。
***
「こちらをお使いください。」
少しじっくりと観察される。
「私の感知結界と防御結界を破られたのは初めてです。失礼ながら、お名前をお伺いしても?」
確かに結界あったな。
私は何もしていないから母が無効化してくれたようだ。
「ユエルです。」
幼い頃から呼ばれていた名を口にする。
「ユエル様。第二皇女様と同じお名前なのですね。」
知識では一応知っている。
私と同じ年に生まれ、一度も素顔をさらしたことのない第二皇女。公式のどうしても出なければいけない式典以外には出てこない。
魔術院のローブで出席し顔を隠していることから、神官になるための修行に忙しいと噂されている。
……と。
それ以上の興味はなかった。
私の名前は、その年生まれた王の子供と同じ名前が流行るのはよくあることだから多分母が適当に?名付けたと思われる。
倒されたのに、元勇者の子供の名前適当につけるのはどうかと思った。
仲が悪いわけではないと言っていたから、「倒された」という表現が正しいかはわからないが。
「では、今日は夜遅いですし、これにて私は失礼いたします。明日の朝また伺いますのでその時に何かとお話いたしましょう。」
側近は優雅に礼をして出て行った。
***
夜遅くに王に呼び出されたと思ったら、王の寝室に人がいた。私が全く気がつかないのは初めてだった。
こんなことをできるのは、元魔王くらいだ。という事は、彼は元魔王の子であろうか。
(はて、女の子とお伺いしていましたが、どう見ても男性にしか見えません。)
側近は心の中でつぶやいて、きっと何か理由があるのだと察した。
「ユエル」は隠れたおしとやかな女の子のイメージで名付けられることが多いです。男性でこの名前だと「ん?」と思われますが、一定数はとりあえず王家の名付け名にあやかっておこうというノリでつけちゃう人や、王家大好きすぎる人たちはつけちゃいます。