5
祭りは夜遅くまで続いている。
幼い子らは家に帰り、ここから後は酔っ払いの大人たちが愉快に魔術の話をしているだけだ。
私は酔った大人達を広場に残し家に帰ることにした。
母は、祭りに最初顔を出した後すぐ家に帰ってしまった。
母に聞かなければならないことがある。
私の思い出した事が正しければ、母は只者ではない。
「ただいま戻りました。母上。」
明かりが一つ、ついているだけのリビングに母はいた。
「お帰りなさい、ユエル」
シンと静まり返った家の中、明かり一つで目をしっかり開けて待っている母には不気味さがあった。
「は、母上、その目は……」
「ふふ、知らなかったでしょ?」
「えぇ。私の認識が正しければ、魔王の封印と同じ文様が刻まれていますね?」
戦闘中は、焦っていて思い出せなかった。しかし、あれは、間違いなく……
魔王に関する本の中にあった魔力封印の文様だ。
「そうよ。私ね、元魔王なのよ。まぁ、封印と言っても目を開けて魔力増幅しようとすればできちゃうし、人間の魔術師よりは強いのだけれどね。」
へ?
「は、母上?それでは、私は魔王の子供なのですか?後、魔王は男と・・・」
「そうね、母様男の姿で王様していたから。あ、間違えちゃダメ、元、魔王の子供よ」
母が少し頬を膨らまして言った。
私はひたすらに
ポカーーン
とする。
意味が呑み込めない。私は?え、母は?
(元)魔王!?!?!?
……ん?父は??
「母上、父上も魔族なのですか?」
「いいえ、人間ですよ。この村がなぜ魔術師の村になっていたか、結界が張られて普通の人たちから隔離されてきたか。それは、私がいるからなの。」
「そ、そうなのですか。」
「あなた、いくらこの村で育った子供とはいえ、その年で魔力量とか、応用力とかおかしいと思わなかったのかしら?」
「はい、周りの知識が盗めない人に興味がありませんでしたので」
「……確かにそういう子でしたね。」
母が呆れたように言うが、ふともう一つ思いついたことを口にする。
「あ、あの、元魔王の子供を外に出していいのですか?」
恐る恐る聞いたが、母はあっけらかんと答えた。
「いいのよ。元魔王の私を監視する目的も含めて周りの魔術師はいることは確かよ。けど、別に私もここから出ちゃダメとは言われてないの。まぁ出ると騒ぎになってしまうし、出ないようにはしていますけれどね」
「ではなぜこのような村があるのですか?」
「あなたを、無事に育てるためよ。」
母はさらに続ける。
「この村はもともと魔王城があったところに作ったの。新たな魔王と共に魔族は別の場所にお引越しさせたわ。ちょっと人と距離が近くなりすぎてしまいましたからね。魔族は人と対立する気はさらさらなくて、人と魔族は本に書かれているほど仲が悪いわけでないのよ。でも、元とは言え魔王の子供は魔術については秀でている才能を持っているから、何かにつけて利用されてしまうのよ。」
母は、少し上を昔を思い出すように見た後、私に目を合わせた。
「だから、あなたが自分のことを自分で考えられるようになるまで隠されていたのよ。」
なるほど、現実の世界は本で読んだものと違うのか。
妙に納得した。
「あの、今までありがとうございました。」
私は自分の存在も知らず、知らず知らずのうちに皆か守られていたらしい。
「ふふ、またね。竜騎士選抜の試験、頑張ってね。」
そう言って母の目がゆらっと魔力を増幅させ、自分では旅の支度も何もしていない私に転送の術をかけてくる。
なにやら机の下に隠すように置いてあったらしいカバンにも術がかけられているから、母が準備してくれたのだと思う。
そ、それにしても……
え!?えええええええ!!!
いきなりすぎない!!?
転送キャンセルさせようとしたが、母の魔術はさすが元魔王と言えるくらいの強さで、無効化ができなかった。
とりあえず、渾身の力を振り絞って出した
「い、いってきますぅうううううう」
という言葉だけが私の立っていた場所に残った。
***
「ふぅ。」
元魔王、アザリアはうまく結界をすり抜けさせ、目的の場所に転送が完了したのを確認し、すっと目を閉じる。
ガチャ
少し外の明るい声が家の中に入ってくる。
パタン
扉が閉まると、先ほどの外の音が嘘のように静かになった。
「行かせたのか。」
家にノックもなしに入ってきた村長はアザリアを見て言う。
「えぇ。しんみりするのは嫌いで・・・これ以上一緒にいたらみっともないところ、見せてしまいそうで。」
「ついていってもいいんだぞ?久しぶりに顔を合わせるだけでもあやつも喜びそうなもんだが。」
「しかしね、私……」
うっすら目を開けると不穏な眼差しを床に向ける。
「いいの。子離れも大切だわ。」
「……そうか。そうだな。」
村長はここの村にいない自分の子供を思ってか控えめに笑って答える。
その表情は、慈愛に満ちた眼差しをしているのにどこか揺るぎない威厳が垣間見えた。
「では、私はこれにて。おやすみ。」
さっき来たばかりだが、用件は済んだようだ。
「ええ、お休みなさい。」
今度は音もなく村長は家を後にした。
「ちょっと悲しいしすごく心配だけど、子供は勝手に育つのだから手を出してはいけないのよ。もうあの時のような過ちは繰り返さない」
ギュッと眉間にしわを寄せて、誰もいなくなった空間に向けてつぶやく。
そして、大きな深いため息とともにゆっくりとアザリアは目を閉じ、椅子の背もたれに身を預けた。
さらっと書いてますが、お母さんも男装魔王様です。そっちのストーリーはお父さん出てきたあたりで番外で書くか、別のストーリー「男装魔王」とかに・・・自分が読みたくなったら書きます。
ブクマされるとは思ってもおらず、まさか評価までいただけるとは嬉しいです。皆様のおかげで少々話が詰まっていたところから抜け出すことができました。(ここから5話くらい先のお話で一回詰まりました笑)
本当にありがとうございます。