12(竜騎士とは)
竜は奥の方で丸くなって静かにこちらを見ている。
目の前の男は、静かに竜騎士の秘密を話し始めた。
魔術院は魔力のみを得意とするが、竜騎士は竜と人の縁と竜の奇跡、そして人、すなわち騎士が武器を用いて戦うことを得意とする。
竜騎士になるため必要な条件は、騎士であり竜の魔力耐性に応じて不要な魔力で汚さずに共にあれること。そして、竜騎士であり続けるための条件は、竜を愛し、竜に愛されること。
歴史的に見ても途中で愛想を尽かされてしまった竜騎士は少なくなく、竜は天に帰るように消えていってしまうらしい。
特に人間同士で好き合ってしまうと、竜が拗ねてしまい愛想を尽かされる。そのこともあって現役竜騎士は独身だ。
歴史的に見ても、戦ではなく、老いて死ぬまで竜と共にあった竜騎士は神と同様に崇められているほど稀である。
老いて死んだ竜騎士は、その体を竜が食べ、天へ昇っていくらしい。
「ここまでで何か質問はあるか?」
一通り、竜騎士の概要を説明した後、一旦話を切って質問があるかどうか聞いてきた。
「竜の魔力耐性にわせてというところが気になったのですが、魔力耐性は上がるのですか?」
「あぁ。上がる。竜には第一形態〜第五形態まであるんだが、形態が上がるごとに耐性は上がっていく」
「ケイタイ?」
「そこらへんも含めて学園のことを説明しよう。」
学園に入るための試験ではまず「人」を愛していないか、騎士にふさわしいかどうかをまず見られ、その次に魔力適性を測定する。
水晶に魔力を込め竜の卵に対して魔力が多すぎないかを測定するのだが、少なすぎると水晶が光らず、多すぎると水晶が割れる仕様となっている。
魔力が少なすぎても入れない理由は、魔力の素質が全くないと、竜と共に戦う際、自分の身を自分で守れず、竜騎士として戦場に出られなくなるからだ。
試験の不合格者は水晶が光らないことが原因であり、現国王になってから水晶割って不合格とされたのは王太子だけだという。
「竜」と「竜騎士」は「卵」と「騎士」として出会う。
騎士は魔力を洗い流す神聖な泉の水で卵と身を清め、祈りを捧げ続け、祈りが届くと産まれるそうだ。
さながら、竜を口説くというようなものかと私は思った。
竜は卵からかえって試練の門が開くその日までは幼体のまま過ごす。
試練の門は10月に一ヶ月間にわたり竜と竜騎士を門の中へと招く。
この一ヶ月間は別名を「試練の月」と呼ばれ、資格を持つものが試練の門をくぐり試練に挑みにいく月である。
毎年8月頃から試練の門をくぐる資格があるという証である模様が体のどこかに浮かび上がり始める。
竜と十分心を通わせたものが資格を得ると言われる。
試練は決して生易しいものではなく、試練の途中で心が離れて、帰ってきたのは人だけということも稀にあるらしい。
試練から帰ってくるまでの期間は人によりけりで、大抵10月中には帰ってくる。
そして、この試練を乗り越えることにより形態が変わる。
形態には、第一形態〜第五形態まであり、形態を変えていくことにより段々と魔力耐性が上がり、更には相性が良ければ竜自身が竜騎士の魔力を取り込んで力を発揮することができる。
学園内では、形態が上がることが進級を意味する。第一形態は産まれた時の幼体で、第三形態になることが学園の卒業資格となる。
第三形態までくれば一人前とされ、その後からはほとんど門をくぐる者がいない。
第四形態になると属性を持ち、第五形態は神話の話であり現在はいないが、どうやら人と変わらぬ姿を取れるようになるらしい。
「俺が知っているのはこれくらいだ。」
今までの疑問が吹き飛ばされていく。
「わかりました。男性でなければならないのは、条件が騎士であることだからですか?」
「いや、女性の騎士はいる。だが、こと竜騎士に関しては離職率を下げるために男性のみにされている。異性がいることで、訓練や遠征先で間違いが起きる原因になったり、一緒にいることで惹かれるが出てくる可能性が上がるからな。竜から心が離れる原因はなるべくない方がいいんだ」
「なるほど、では、私がこの姿なら問題ないということでしょうか?」
「あぁ、問題ない。まぁ、たまに性別関係なく惹かれるやつもいるが、それは知ったことなかろう。後、その一人称は変えた方がいいぞ」
「えっと?」
グラさんには何も言われなかったが。
「竜騎士は神官様とは違ってな、荒っぽいやつが多い。お前さんに惹かれることによって竜に見放されてしまう騎士を出したくないなら、違う一人称にしとけ」
「俺?僕??でしょうか」
「僕あたりでいいだろう。後、俺の相棒もお前さんを気に入ったみたいだ。俺との間に敬語はいらねぇ。わかったか」
竜は、さっきまで丸まってこっちを見ていたはずが、いつの間にか少し近くに来ていて、鼻を私の頭の上に近づけようとしていた。
「はい、わかりま……わかった」
「よし、さて帰るか」
男はさっと立ち上がる。つられて竜も立ち上がった。
最初見たときも思ったが、すごく大きい。
私の何倍あるのだろう。
フンッス
竜がなんか言っている。
そして背中を見せてくれた。
「え?乗せてくれるの??」
「は?お前さん、相棒が何言ってるのかわかるのか!?」
「いや、行動的にそう見えただけで……」
「そうだよな、まぁいい。相棒が念話で背中に乗ってもいいと言っている。どうする?」
「もちろん、乗らせていただきたいです!!」
声がはずむ。
こうして、帰り道は恐れ多くも竜に乗れることとなった。