11(初見、竜)
通路の中は青い光がふわふわと舞っている。
技術力がすごい。
魔術はどれも精密に組まれていて、一歩にかかるエネルギーが瞬時に計算されている。最適に身体を守りながら歩行速度を超加速しているようだ。
魔術に少しでもほころびがあれば、私の体は吹き飛ばされるような衝撃がかかるだろう。
転送した方が早く楽なのでは?
とも思うが、どうやら、魔力がない人たちを安定して転送させるには、術者を確保するのが難しいため、長いトンネルのような魔術通路が普及したらしい。
スーーーゥン
急激にブレーキがかかったと思ったら、トンネルを抜けた。
一面雪国なんてことはなく、岩と岩の間に出たようだ。
バサッ
上から大きな羽ばたく音がした。
「よう、お前さんが、ユエルか?」
響く。無駄に、響く声で声が降ってくる。
「はい!そうです!」
魔力で声を増幅させたかったのだが、竜騎士は魔力がありすぎるとなれない。という話から、竜自身が魔力を嫌うのかもしれないと考えた私は、魔力を使わずにありったけの声を出した。
岩と岩の間に吸い込まれて、お世辞にも聞き取りやすい声からはかけ離れてしまったが。
「はは!情けない声をしておるな。まぁ良い。ついてこい。今は俺しかここにいないし、あまり隠す必要はない。」
どういうことだろうか。
聞きたいことが山積みだが、私の返事を待たずに、上にいた大きな塊がさらに上へ行く。
「竜だ……」
私の声は竜のはばたきにかき消された。
竜は高度を上げ猛スピードで飛び去ろうとしている。
私は、感動もそこそこに、自分にかけていた制限魔法を解除した。
竜とともに空を飛ぶ。
幸せが、すぎる。
独特な目を見たくて顔のそばまで行って、眺める。
もちろん、猛スピードで飛行しているのでゆっくり眺めたくとも見られない。
それでも、まじまじと観察できるところをする。
たまにバランスを取ろうと揺れ動く尻尾。
私が目障りなのか、少しむき出しになった牙。
ザラザラで冷たそうな皮膚。
その全てが美しい。
これが、猛スピードで飛行中でなければ舐めまわしたいくらいだ。
竜は次第に高度を落とし、祠のような洞窟へ入る。
私も続けて入った。
竜は何かを下ろした。
「俺を無視して相棒の周りを飛び回るとは、面白い奴だな」
ニカッ、と歯を見せて男性が笑いかけてきた。
この人が、グラさんが言っていた竜騎士の人か。
「とても、とても興味深いことが多くて、その、少しでいいので触れさせていただけないでしょうか。」
その男性と目も合わせず、竜を見つめて言う。
「おいおい、俺の相棒は確かに美しいけど、人の相棒を触るのはルール違反だぜ」
がっくり肩を落とし、今度こそ男性に目を合わせる。
緑色の澄んだ瞳で男性はしゃべり方のがさつさからは想像できないほど静かな目で、冷静にこちらを観察していた。
「さて、お茶も何も出せねぇが、ここが俺らの住処だ。誰にも邪魔されねぇ。聞きたいことが、あるんだろ?魔王の娘さんよ」
いきなり、竜騎士の偉いだろう人から、魔王の「娘」と言われて動揺した。
「あ、あの。私が娘であるということは、どなたまでが知ってらっしゃるのでしょうか」
「あぁ?そんなことか。そりゃ、お前さんが生まれた時に立ち会った、勇者パーティーの俺らと、お前さんの家族と後は村の人らだろうな」
要は国のあ偉いさん達が皆知っているようなものじゃないか……
「その、竜騎士の試験は男性のみと伺って……」
「あぁ。そうだ。今のお前さんは男性にしかみえないからな。大丈夫だ。その感じでは人を愛してもないだろう?」
しっかり頷く。
人にはあまり興味が向かない。
「ならば受験資格はある」
その言葉を聞いてほっとする。
「さて、どうせ竜騎士とは何か、学園にはいるための試験はどんなものか。聞きに来たのだろう?」
「はい、その通りです。」
まさに聞きたいと思っていた内容を口にされた。
「俺も人にあんまり興味はないんだが。お前さんは俺の相棒が振り撒こうと必死だったのに、平然とついてきたからな。ご褒美に教えてやろう。竜騎士の中でも一部の竜騎士しか知らない秘密を。」