第2話
プロットなど無いのです!
いや、そもそもだ。蓋沢の言うミカちゃんってギャルゲーのヒロインじゃん。この前蓋沢がみんなに自慢してたみかんソフトの新作だっけ?篠原さんは二次元のキャラと張り合ってたって言うのか……?
そんなことを考えながらぼんやりと授業が終わるのを待っていた。
勉強なんて、テスト前にすればいいのだ、今は時ではない……。
「じゃあ、次の問題を……、はぁ、まただらけきって……。おい、為井、この問題前に来て解いてみな」
うげぇ、勉強しとけばよかったぁ……。
僕は二秒であっさり考えを翻し、暗い足取りで黒板へと向かった。
その途中で僕は通り道に居る篠原さんの方をふと見たが、彼女には何ら変わったことなどなさそうだ……、ん?
僕が気になってしまったのは、彼女の膝の上だ。別に彼女の太ももに興味があるとかそんなんじゃない。彼女の指がスマホの画面を全く見ずに、驚くべきスピードで動いていたのだ。なんだ、摩擦で燃えないのかな。
僕が唖然として居ると、
「せんせー。為井が篠原さんに見とれてまーす」
「ちょ、ちがっ!?」
クラスの生徒に冷やかされてしまった。我ながら、とっさの対応はキモオタ仕様で呆れる……。
「為井……。何があったのかは知らんがさっさと来なさい」
いや、先生ー?この人めっちゃ真面目ぶってクッソスマホ弄ってるんですけどー?
そう思って彼女の顔に困った顔を向けると、なぜかウィンクをされた。
だけど、全然目が笑ってない……。なるほど、黙っていろと。まぁ言わないけどさ。
「すいませんすぐ行きます」
僕は足早に問題を見て、やっぱりわからないことに気がついた。なんだ三角関数って何に使うんだ。
適当にサインとかコサインとか書いてたらみんなに笑われた。ちくしょう。
蓋沢はというと、授業中にも関わらず堂々とゲームをしていた。
いや、あいつはあいつで自由すぎやしないか……。昨日女の子を振ったような顔には見えないし。なんだあいつツヤツヤしてやがるな。いや、あれは奴の脂汗か……。
席に戻った僕はますます混乱が深まるばかりだった。
「さて、そろそろ終わりか。為井、お前もうちょっと勉強しておけよ?」
余計なお世話だ。僕は塾では真面目に勉強している。学校の勉強など、取るに足りないのだー!
「す、すいません」
思っていることを口に出すわけにはいかないので僕にはそんな返事をすることくらいしかできなかった。
直後にチャイムが鳴り響いた。今日も長い授業だった。
先生が号令の挨拶をするとクラス全体が気の抜けたような雰囲気に変わる。ザワつきが認められる少し自由な世界の完成だ。
よくよく考えれば、学校に閉じ込められているのには変わりはないのだから全然自由ではない気がするが、まぁ、自分で気持ちを落ち込ませることはないだろう。
そんなくだらないことを考えているのは、僕にそんなに友達がいないからであり、簡単に言えば僕にとって休み時間は休み時間で手持ち無沙汰できついからなのである。
高校に入れば自然と彼女ができるものだと思ってた。全くのまやかしだったが、ラノベはその辺最初に書いておいて欲しいと思う。この物語はフィクションであり、大抵の人には当てはまりませんってな。
だが、どうしたことだろう。
当てはまらないはずのそんな都合のいい展開が僕の目の前に転がってきたのだ。
「ねぇ、為井くん?ちょっといいかな?」
顔を上げるとそこにいたのは、クラスのマドンナ、完璧美少女篠原さんだった。
おい、待て。なんでこんなモブキャラの僕に話しかけてくる?あ、そっか、クラスのみんなの好感度稼ぎかー、あーなるほどね、わかります大事ですよねー、ほんと僕がいるばっかりに気を遣わせてしまってすいません!
「ちょっと聞いてる?為井くん?」
おっとキョドりすぎて相手を困惑させてしまったようだ、まったく僕ったらお茶目さん!
じゃないだろう、返事しろ。
「え、えと、な、何かな?し、篠原さん?」
あ、もしかして授業中に僕と目があったから告られる前に先に振っておこうとかそんな感じだろうか。は?なんで、振られなきゃいけねぇんだよ、図に乗るなばーか。って被害妄想のしすぎか。はは、僕ごときにそんな思考を使ったりしてないか?
「ちょっと話があるんだけど、付いてきてくれる?」
はい来たー!このパターン告ってもないのに振られる奴やーん!「ちょっと、何視線送って来てんの?迷惑なんだけど?」とかいうやつに決まってるー!
「わ、わかったよ」
僕はこれからどんな風に対応すればいいのかを考えながら彼女の後をついていくことにした。
何と言えば彼女は傷つかないだろうか。勘違いするなという言葉が勘違いなんだよ、とかきっと彼女は傷つくに決まってる。僕ごときに恥をかかされたと思ってクラスでいじめられるかもしれない。
そんなことは死んでも避けたい。なんてったって僕は平凡に生きたいのだから。
昨日の蓋沢事件みたいなイレギュラーはごめんだ。
そうこうしているうちに、目的地に着いたようだ。階段を登り、たどり着いたのは、屋上前の踊り場だった。
安全上屋上は閉鎖されているので僕たち生徒はこれ以上進めない。
「さて、ここなら誰にも聞かれないかな?」
は?誰にも聞かれない?
え?何僕も蓋沢と同じように告られんの?いや、困る、気のいい蓋沢をああまで言わしめる女の子だ正直手に負えない……。って何を早とちりしてる、バカじゃないのか僕は!
あ、そういえばまだ考えていないことが一つあった。中二ノートだ!
「ぼ、僕に何をする気なんだ!い、言っとくが脅迫なんて通じないぞ!僕のことなんか誰も気にしないし、面白がられてもすぐに飽きられるさ!」
僕は力強くそう言い放った。
「な、なんの話?私君にそんな嫌われるような事しちゃったかな……?」
「しちゃったかなも何も僕の黒歴史の詰まった本を見たんだろ?それをネタに強請ろうとしてもそうはいかないぞってことさ」
「あ、あぁー。あれか……。全くあなたもあなたで何てもの持って来てくれてるのよ!」
いや、なんで僕が怒られなきゃならないんだ。怒るのは僕のほうだろ!だが、まぁそんなこと美人の女の子にそんなこと言えるはずはない。クラスで干されるなんてごめんだ。
「あ、あれは僕がやったわけじゃ……。まぁ、そんなことはいい。これで話は終わりだよ。じゃ、じゃあね!」
「ちょ、ちょっとまって!」
僕は振り絞った勇気を使い切り、屋上前の踊り場から逃げ去ろうとする。だが、その腕を彼女は力一杯掴んで引き止めた。
その時、僕の握力が女の子に負けていることに気がついた。仕事しろ、男女差……。
「い、痛い痛い!?な、何するんだ!」
「あ、ご、ごめん……。じゃなくて!私はまだ一言も本題に入ってないわ!」
「え?そうだったの?強請ろうとしてたわけじゃなかったのか……」
「あなたの中で私はどんな悪人にされてんのよ……」
彼女は少し項垂れる。なんだか悪いことをしてしまった。
「いや、そんなつもりは無かったんだ。ただ、美人な女の子で僕みたいな奴に話しかけてくる人はみんな悪人だと思ってるだけで……」
「褒められてるのか貶されてるのかわかったもんじゃないわね……」
彼女はそう言うとため息を一つ吐いた。
「私は別に君からお金を巻き上げようだなんて思ってないの。本題っていうのは昨日の話よ……」
「あ!そうだ!蓋沢に告白してたのあれは一体どういう風の吹きまわしなんだよ!」
「しー!声が大きい!!!」
「あ、あぁ、ごめん。そうだよな、さすがに気のいい蓋沢でも生理的に無理だよな……」
「ねぇ?蓋沢くんにさりげなく悪口言ってない?まぁ、別に私の知ったことじゃないんだけど……」
ひどいな蓋沢の扱い……。あいつああ見えて結構いい奴なんだぞ。
「昨日告った人に対して知ったこっちゃないだなんて……。やっぱあれは罰ゲームだったんだ!なんてひどい……」
「その理由について今から話そうとしてるの!」
彼女はその顔を必死で怒らせながらそう言った。怒ってても可愛いというのが美人がずるいところだと思う。なんでも許されるのは彼女たちの特権だずるいぞ。……何に嫉妬してるんだ僕は。
「それで、理由ってのは?」
「君は呪いって信じる?」
「いや、信じない」
「即答ね……」
いや、この科学の発達した世の中でそんなオカルト的なものを信じるものなどいないだろう。僕もその一般人の感性を持っているに過ぎない。
「それが普通でしょ?」
「まぁ、そうなんだけどね……。とりあえず簡単に説明すると私には呪いがかかってるの」
「ほう、続けて?」
僕は宗教の勧誘だったか……、と遠い目をしながらそう言った。
「全然信じてないわよね!?本当なの!ちゃんと聞いて!」
「宗教の勧誘はみんなそういうんだ」
「違うわよ!本当に私は困ってるの!昨日のだってその影響なの!」
「ふーん」
「なんで、信じてくれないの……!ここはすんなり信じるところでしょ?自分で言うのも何だけど私結構モテるのよ?男なんだからすんなり受け入れときなさいよ?」
「え、えぇ……」
さすがに美人を自分で誇ってくるとは思っていなかった。ちょっとドン引きだ。
「まぁ、いいわ。それで、呪いの内容を聞けば納得してもらえると思うの」
「うん、まぁ、聞くだけ聞くよ……」
「うぅ……、なんでこんな適当なの……。屈辱……。とにかく言うわ、私は、ダメな男に一目惚れしてしまう呪いにかかってるの!」
「あ、納得だわ」
「え?そんなにあっさりっ!?」
いや、蓋沢に本気で告白するだなんて普通に考えて有り得ない。呪いでもかかってないとおかしいよなーいやー、全く……。
「って、まじで!?そんな都合のいい呪いある!?」
「それがあるのよ……。ちょっと私の様子を見てればわかるはずよ」
「そ、そうなの?全然気がつかなかったんだけど……」
「え、えぇ……?私裏で、ダメンズウォーカーとか悪趣味女とか呼ばれてるのよ……?」
「お、おぅ……。それは大変だね……」
僕は、相手が美人と言えども流石にこれは同情を禁じ得ない。
「だから、私の趣味が色々おかしいのは私の趣味じゃないの!だから、その!あんまりこのことを言いふらさないでもらえるかしら?」
まぁ、とりあえず呪いというのが恥を隠す言い訳だとしても、本当だったとしても恐らく僕が彼女と喋るのはこれっきりだろう。そんな心配しなくてもむやみに言ったりはしないのだが……。いや、言うかもしれない。
「とりあえずこの件は見なかったことにするってことでいいよね。じゃあ僕はこれで」
そう言って僕は走って教室に戻った。
「あ、ちょっ!?」
クラスのマドンナが止めようと知ったことではない。
なんで逃げたかって……?これ以上美人と一緒にいるなんて限界だったからに決まっているだろう……?