ぎゅっとなる気持ち
手が触れただけ
別に、そこまで意識することでもないけど、彼と付き合いを始めてからまだ一度も、触れてない。
昔の人たちみたいに結婚するまでは駄目だとか、純潔を守るとか……そんなんじゃないし。
ただ、触れなくても話は出来るし、恋人にもなれたわけで。なのに……それなのに、寂しさを感じている。別に、スッと伸ばせばいいだけのことだし、難しくないのに。どうしてそれが出来ないのだろう……
「なぁ、美月のウチって、親、厳しかったか?」
「ううん、普通」
「じゃあさ、休みの日に遊び行かねえ?」
「どこに?」
「そうだな~無難に、テーマパークってのはどうよ? コースターとか絶叫系とか」
「い、いいけど」
彼、拓斗と付き合い始めてから、未だにどこかへ遊びに行ったことが無い。彼は仕事してるし、わたしは専門に通ってるからで、都合とかが合わないって言うのもあるからだ。
彼がわたしの親のことを聞いたのは、一応、夜遅くまで一緒にいていいかどうかを確かめたかったのだろう。
「おっと、じゃあ仕事に戻る。じゃあ、またな」
「う、うん。また……」
わたしと彼は最近、近所のコンビニで出会っている。彼の現場がコンビニ近くってこともあって、連絡してコンビニに来るようにしていた。彼に会うためだけに。
そして、今日もまた、コンビニで話をする為だけに彼と会う。
「美月はさ、誰か友達とかと遊ばねえの?」
「どうして?」
「俺とばかり会ってるだろ。だから、心配になった」
「い、いるけど、仲良しの子はいない……別にそれが普通だし」
「ガキの頃ってもっと友達いたんじゃね? 今は俺だけ……とか? まさかな」
「拓斗は友達、じゃなくて……彼氏、でしょ?」
「そうだけど、友達以上だから友達でもあるだろ? だからほら」
「……何?」
拓斗がわたしに手を差し出してきた。どういう意味?
「握手だよ、握手」
「あ、うん」
笑顔を見せながら、彼はわたしと握手をした。こうやって時おり歯を見せながら笑う彼のことが、愛おしく感じる時がある。それに……
「美月の手、ひんやりしてるのな。あぁ、アレだ! 心が温かい……だったか?」
「何それ……そんなんじゃない」
「いや、俺は昔の人のこと、信じる。美月はそういう女だしな。じゃあな!」
「あっ……」
握手を交わしていた彼の手は離れ、彼は仕事へ戻って行った。その場に一人残されたわたしは――
胸が……ううん、心臓がぎゅっとしたまま、この場から動けずにいた。
手に……手に触れただけなのに、どうしてこんなにも胸がぎゅっとするの……?
わたしって、こんなに免疫無いのかな……。それとも、拓斗のことを好きになり始めている?
日常、それこそコンビニのレジで店員と手が触れ合うことはあるのに、どうしてだろう……彼、拓斗と握手して手が触れただけなのに、こんなにも彼と離れがたく感じてしまうなんて。
手と手が触れただけなのに――