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クリスマス・キス

                   クリスマス・キス



「美月さん、もうすぐ誕生日なんだって?」


「あ、はい。しかも25日なんですよ……微妙ですよね~」


「そんなことないと思うよ。ケーキ食べ放題とかだろうし、同時に祝ってもらえるでしょ?」


「でも世間って24日が本番になってるじゃないですか」


「まぁ、そうだけど……25日はシフト入ってる?」


「は、入ってますね……」


「まぁ、俺もなんだけどね」


 わたしと佐倉くんは24、25日はどっちもシフトに入っていて、休憩中の今まさにふたりで愚痴っている最中だった。事前に休みを希望しなかったのもあったから仕方ないことだけど、どうしてそうなるのかなと思いながら、彼とは普通に笑顔で話が出来ていた。


 ルナさんと会って以来、特にわたしと佐倉くんの関係に変化が訪れたわけでもなく、それでも最初の頃に比べれば自然と会話は出来るようになっていた。特別に意識しなくなったと言えば聞こえは悪いけど、気まずくなることもなく仕事をしていた。


 今までのわたしだと、ドキドキを繰り返したり、近くにいるだけで何も手に付かなくなったりしてミスを繰り返していたけど、今はそれが無くなっていた。たぶん、仕事は仕事……と考えるようになったからだと思う。先輩たちはそのことを心配していたけど、次第に何も言わなくなっていた。


 単に12月が忙しいということも関係していたけど、カンナさんたちもわたしや佐倉くんを過剰に心配しすぎていたことを反省していて、もうそういうことはしないから安心して仕事していいよなんて言われたのが印象的だった。


 佐倉くんとはようやくラインの交換をすることが出来ていて、連絡は取ることが出来るようになったのがわたしにとっても、一歩前進した感じだった。もちろん、お互いに”告白”はしていない。それでも……


「クリスマスにシフトとかマジで辛いっすね~。美月さんも佐倉くんも偉いっすね!」


「あ、いえ、そんなことないですよ」


「まぁ、イヴの日だからって特別ってわけじゃないんで関係ないですよ」


 二谷にたにさんは何も予定が無いらしく、わたしたちを見ながら愚痴っていた。その気持ちは分かりますけどね、わたしたちも。


 25日――


 通常通りに仕事を終え、時間は19時を過ぎていた。わたしは、一足先に仕事を終えていた彼がいる場所へ向かって吐息が白くなりながらも、急いで走り出した。


 一度来たことのある場所に来るとは思わなかったけど、わたしは今一度、水〇橋にある遊園地にたどり着いた。


「ま、待ちました?」


「いや、大丈夫。じゃあ、行こうか?」


「はい」


 「ほら」と、彼はわたしに手を差し出してきて、わたしは戸惑うことなく手を繋いだ。


「何か、緊張するね」


「そ、そうですね。でも、佐倉くんの手、温かいです」


 さすがに観覧車には乗らずに、凍える寒さの中で鮮やかなイルミネーションを楽しみながら、わたしたちは言葉少なに手を繋いでいた。


 佐倉くんは寒さで震えているわたしの身体を抱きしめ、首に手を回して唇を合わせてきた。


「…………ん」


 わたしは目を瞑ったままビクリとして、彼の口付けに応えた。わたしも腕を回して、彼にしがみつく。彼とわたしの身体は、隙間が無いほど密着した。今までキスをすることにすら恐怖を感じて拒否をしてきたのに、これまでのことが嘘のように彼のキスを受け入れていた。


 わたしは気持ちの昂りと、胸の高鳴りが収まらないことを隠すためにいつまでも口付けをしていたかった。そんな想いからか、わたしの方からさらに強く抱きしめ強く唇を押し当ててしまう。


「…………んん……」


 息継ぎの続かない彼が両手でわたしを押してきたところで、一度は離れたもののわたしは名残惜しくなり彼の唇に軽く触れたところで、ようやく離れた。とても恥ずかしそうにわたしを見つめている彼。


「はは……び、びっくりした……けど、嫌じゃなかった」


 わたしはもう一度彼を抱きしめようと、肩に手を伸ばした。彼も手を伸ばしていて、わたしを真っ直ぐに見つめて来て……そして――


「好きだ。俺、美月さん……美月のこと、好きなんだ。俺と……」


 わたしは彼が言葉を放つ前に、わたしから唇を押し付けた。ほんの数秒で離し……わたしも彼を真っ直ぐ見つめながら、告白を口にした。


「わたしも、め……恵くんのこと好きです! わたしと付き合ってください」


 告白に照れた素振りを見せながら、それが彼の返事であるかのようにわたしの前髪を優しく透かして、もう一度、わたしと優しいキスを交わしてくれた――

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