元カノの答え
元彼女の答え
ふと、窓から外を眺めたわたしの目に飛び込んできたのは――
「マキ……あ、あのね、外に彼がいるんだけど……」
「ん? 外に? どれどれ……あ~……」
マキのわたしを見る目は明らかで、彼と一緒にいる人を何とも言えない表情で眺めている。もちろん、一緒にいるからと言って、そういう関係じゃないということは分かってるつもりだけど、どうして決心を固めた時にいつもそうなるのかなと思ってしまう。
「もしかしてこの店に入るつもりなんじゃ……?」
「え……で、出る?」
「待って……どこに座るか分からないけど、わたしが見張るからサーヤはそこで座ってて。いい?」
「う、うん」
そう言うと、マキは席を立って様子を見に行ってくれた。もし彼たちと鉢合わせたらどうなるのだろう? ううん、どうもしないと思うけど、でも……あの女が何をするか分からないし怖いのが正直な所だった。
「サーヤ、ただいま。大丈夫、こっち側には来ない。入口に近い所に座ったよ」
「……そ、そっか」
「と言うか、あの女は喫煙するみたいだから席が離れた感じ。どうする? スパイする?」
「え? ど、どうやって……」
「もちろん、席移動。煙とか平気?」
「が、我慢する……」
「じゃ、少し離れてこっちへ来て。死角になってる席があるんだ。ちゃんと声は聞こえるから」
「ん……」
何やってるんだろう? って思うけど、偶然にも同じお店に来ていた彼がどういう話をするのか聞きたくて、イケないと思いながらもわたしはマキと一緒に、近くの席へ移動した。そして身を潜めた……
※
「アイリ、お前まだやめられないのか? 煙草」
「ん、だってストレス半端ないし。別にいいじゃん? 恵に関係ない」
「まぁ、そうだけど……俺はそれ好きじゃない」
「あぁ、ごめん~」
だから嫌なんだ。コイツは人のことを考えない。別れて良かったとも言える……それに、今さら何で俺に近付いてきたんだ? ここではっきりさせないと俺自身も変えようがない。
「それで、お前はどうして俺に声をかけてきた? あの日は偶然だっただけだろ? なのに何で会いに来る?」
「理由なんてないけど?」
「は? お前それ、どういう……」
吹かしていた煙草の煙をわざと俺の顔に吹いた後、灰皿に煙草を押し付けたアイリ。煙たがっていた俺は不意を突かれ、両手で顔を引き寄せられてアイリと――
「……恵」
「……ぐっ!? お前、何す……げほっげほっ……」
「どう? 煙草の味とわたしのキスの味、美味しかった?」
「(――っ!? そ、そんな)」
「(あの女……嘘でしょ!?)」
「……っざけんな! 何でそんなこと……げほげほっ」
「……理由なんて無いって言ったけど、私とヨリ、戻してくれない?」
「はぁ? 冗談だろ? 俺はタイプじゃないとかずっと言ってたくせに何でそんなこと今さら……と言うか、俺の目を見て言えっての! どこ見てんだよ……」
「……別に。ちょっと余所見してただけ。何て言うかさ、あなたのそういう弱そうで強そうに見せる所が好き。それだけ。と言うか、年下の女に取られたくないし?」
年下の? あの子のコトか……なるほど、コイツの行動はそういうことか。
「悪いけど、キスをされても俺はアイリと付き合う気はないから。もうやめてくれる? 無駄だし」
「それが恵の答えなの? 本当に?」
「あぁ。この前偶然会った時も言ったけど、俺は……」
「ふーん……? そうなんだ。じゃあもういいや」
「は? 何だそれ……お前何しに」
「所詮、当時からつまらない男は変わらないなって再確認したかっただけだし~? いつまでも憧れの先輩のことを追いかけていればいいんじゃない? 遠い存在だものね、月って……」
「何だそれ……」
「あはっ……うつむく癖、直ってないね。ウケる~! ストレス解消出来たし帰るね」
「……」
「(マキ、こっち来るんだけど……)」
「(いや、もうばれてる)」
「(つまらない恵は、あなたにお似合いなんじゃない? じゃあね~)」
佐倉くんはずっと席に座ったまま、うつむいていた。でも、わたしたちは声をかけることも出来ないまま、お店を出て行くことにした。
彼とあの人とのやり取りなんか見たくも無かったし聞きたくも無かった……
でもこれで、わたしは”答え”を言うことが出来るのかもしれない――