わたしの心、行方知れず
気持ちを見失う……
「み……サーヤさん、追加注文受けて来て」
「あ、はい! ありがと恵くん」
「……」
恵くんの元カノとのやり取り以来、わたしと彼はお芝居による恋人関係になった。でも、わたしはそうとは割り切れずに、名前の呼び方や接し方までを半ば強引に彼にやってもらっているのが現実で、そのことは誰の目から見ても明らかみたいだった。
「……美月さんって、佐倉と付き合ってるんすか? 何か無理してる感が分かるんだけど、俺、間違ってます?」
「いや? 二谷でも分かるってことは相当無理してるってことでしょ」
ホールの先輩のカンナさん、二谷さんをはじめとして他のスタッフもわたしのことを変だなと感じている人は少なくなかった。もちろん、こんな関係なんて望んでないし正式に告白をして付き合いたい気持ちをずっと隠していくつもりだったのに、元カノの存在が気になりすぎたのが良くなかったのかもしれない。
お先に失礼します
今日の仕事を終えて外に向かおうとするわたしの背中越しから、声をかけられ振り向くと佐倉君が立っていた。何か用があるのかな?
「サーヤさん、いや……美月さん、ちょっといい?」
「どうしたんですか、恵くん?」
どうしたんだろ? 何かうつむき加減で話しづらそうにしているけど……
「あのさ、もうやめない? その、芝居……」
「え?」
「美月さんがアイリと俺とのことを心配してすごく意識してるのは分からないでもないけど、それって何か意味あるのかなって思って」
「そ、それは……あの……そう、じゃなくて」
「無理しなくていいからさ。仕事で自然な笑顔が出来るようになったんだし、普通にしてくれればいいよ」
「で、でも、元カノさんとはどう……」
「別にどうもしない。あいつはああいう奴だから相手してるだけ。ヨリを戻すとかどうとか、そもそも美月さんに関係ないことだよね。本当に付き合ってるわけでもないんだし……明日から今まで通りにして欲しいんだ。じゃ、おつかれ」
「お、お疲れさま……でした」
あれ……わたし、何か間違ったことしていたのかな。確かにわたしと元カノさんは何も関係が無いけど……どうしたかったんだろわたし。彼のコト好きだから……だから――