表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/60

絶対、負けたくない。

                   それでいいです。



「わたしの名前は――」


「あ、ごめーん……やっぱりやめた。違うっぽいし、聞く意味ない感じ」


「おい、アイリ……」


「佐倉君、わたしも別に名前を教える必要なんて無いと思ってるから。気にしないでいいです」


「そ、そっか……ならいいけど」


 わたしの名前を知られてても彼女にとっては何の意味も持たないはずだし、自分から言うのはやめた。何だかこの女子……しかも元カノなんて人に腹が立った。専門に通ってた時も、こんなに腹が立つってことは無かったのに、今はすごく……


めぐむ、今は誰とも付き合ってないんでしょ? そこの人も()()()同僚っぽいし、私と付き合ってよ」


「何でそうなる? 俺まだ何も言ってないけど」


「つまんないし、いいじゃん? どうせ暇でしょ」


「違ぇし……悪いけど、今はこの子と付き合ってる」


「えっ……」


 驚く間もなく、佐倉君はわたしの肩に手を置いてそのまま引き寄せて来た。ど、ど……どうすれば……なんて内心慌てていると、耳元で囁いてきた佐倉君。


「(ごめん、芝居に付き合って)」


「(あ、うん……)」


 そ、そっか。芝居……そうだよね。そりゃそうだよね。な、何を勘違いしてるんだろわたし――


「あ、そうなんだ? へーウケるね。それで、そこのアナタは()()()()()くらいで顔を赤くして照れてるんだ? ってことは、やっぱ付き合ってなくない?」


 な、何なのこの人……何でこんなに突っかかって来るの? もしかしてヨリを戻そうとしてる?


「それはアイリに関係ないだろ? まだこれからな関係だし、それに、彼女はお前と違う」


 佐倉君は元カノのこの人のことを名前で呼んでるんだよね。なんか、距離を感じるかも……


「年下かぁ……大学じゃなくてフリーターって奴? 楽に生きてるっぽいね。あはは……」


「やめろ! そういうこと言うな。用が無いなら帰れよ」


「ふーん? まぁいいや。()()()帰ってあげる。それじゃあね?」


「……」


 最後の最後まで馬鹿にされた気がする。わたしだけならともかく、佐倉君のことも見下してる気がする。


「佐倉君、わたし芝居でもいいので……負けたくないです。付き合いのお芝居を続けてください。それでいいですか?」


「え? あー……あぁ、()()でいい。何て言うか、よ、よろしく」


「はい、これからよろしくお願いします」


 佐倉君に放ったわたしの言葉の中身は、芝居でもいいので付き合うという関係でいいですよね? と言うことをそれという二文字の中に入れて返事を促した。今までうじうじと行動にも出さなかったわたしの中で、何かが弾けた気がした。絶対、負けたくない。


「美月ちゃん、佐倉くん、平気だった~?」


「俺は別に平気です……」


「って、え? 佐倉……美月ちゃん、どうしたの?」


「何て言うか、キレたみたいで……で、あの、俺……美月さんと芝居として付き合うことにしたんで」


「そ、そうなの? お芝居? それってどうなの」


「は、はぁ……そうですね」


「お芝居で付き合う……ねぇ? 佐倉も美月ちゃんも簡単に行かなそうな気がする。あの女また来そうだし……」


「カンナさん、久留美さん、心配しなくても平気です! わたし、負けないですから!」


「んー……そういう流れで付き合う事にするのは正直良くないと思うんだけど、美月ちゃんが望んでるなら……あんた、きちんと世話しなさいよ?」


「分かりました。多分、すぐにアイリも冷めると思うんで……大丈夫です」


 カンナさんも久留美さんも、それに佐倉君も……お芝居って言ってるけど、わたしはそのままお芝居から本当のお付き合いにしたいんです。まずは、あの人を諦めさせるようなことをしなきゃいけない。


 そして今度こそ、わたしは好きを確実なものにして恋をしたい。

 

 それに迷いなんてあるはずない。迷いなんて、もうあってはいけないのだから――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ