何かの火ぶたが切られた。
元カノ?
「佐倉君……この人は?」
「その、俺の元カノ……です」
え……? 元カノ……。そ、そうだよね。大学生だし、いても不思議はないよね……
「そ、アイリは恵の元彼女~! だけど、今でも好きなんだよね~? ね?」
「……今は何も思ってない」
「へぇーそれって、ホント?」
「ってか、何?」
「ん~? 別に? キミがいたから声かけてみただけ。あ、もしかして今カノはこの中の誰かなんだ?」
佐倉君の元カノさんはわたしや、カンナさんたちをまるで品定めするように、全身を眺めている。
「……あなたは佐倉の元カノ? それにしては随分下品な感じだけど、本当に付き合ってた?」
じろじろと見られてさすがに腹が立ったのか、久留美さんが彼女に食って掛かる。
「本当ですよ? って言うか、あなたは違うっぽいね。年がホラ……あはっ……」
「はぁ!? まだ20代なんですけど? 大して変わらないし失礼なこと言うのってどうなの?」
「まぁまぁ、佐倉くん……ちょっと、美月ちゃん連れて外へ出ててくれる?」
「あ、はい……じゃ、美月さんこっちに」
「は、はい」
カンナさんに急かされて、わたしと佐倉君は外に出ようとした――
「なに、シカトすんの? おかしいね。昔の恵は胡散臭い優しさで溢れてたのに……今はマジっぽい?」
「マジで、そこどいてくれる?」
「うっわ……マジなんだー? ふぅん……」
彼女の横を通り過ぎるわたしが気に入らないのか、挑発的な言葉を投げかけて来た。
「今カノ? 恵がいいんだ? 見る目無いよね~あ、あなたがじゃなくて、恵が……だけどね」
「なっ……!?」
「いいから、外に……」
佐倉君に引っ張られるように、外に出てしまったわたし。何か、性格がキツそうな人だし元カノ? 本当にそうなのかな。でも佐倉君に聞くわけには行かないし……
※
「で、あなたは佐倉の何?」
「彼女でしたよ? 最近まで。あ、疑ってる~? インスタ見ます? すごいいっぱい写ってますけど?」
「そういうの見ても私には関係ないし。写真くらい誰でも撮るからそこは別に関係ないでしょ?」
「それもそうですね。それで、先輩さんたちは今カノの彼女と、恵を守ってるとかです?」
「答える必要ある?」
「いえ~? 興味無いので。まぁ、彼は私と付き合っていながらちょい上の先輩に見向きもされずにフラれてましたし。アレはさすがに引いたって言うか……」
※
「佐倉君、あの人と恋人……だったんですか?」
「……一応」
「今は?」
「今は何でもないから。見たら分かるけど、俺とは合わなかった。だから……」
「そ、そうなんだ……はぁー」
思わずため息が出てしまった。安心したのかなわたし。確かに前は付き合っていたのかもしれないけど、今は違うって、言ってるし何も問題も心配もないよね?
そんなことを思いながら、佐倉君を見ていたら彼もわたしと同じことを思っていたのか照れたように顔を違う方向へ向けていた。
「なに、こそこそ隠れてんの? 今カノさん、名前は?」
店内に戻ってこないわたしたちに痺れを切らしたのか、彼女は外へ出て来てわたしに名前を聞いてきた。わたしは彼女に名前を――




