近くにいるのに
会ってるのに会えない。
いらっしゃいませー
普通にホールに出るようになってから、わたしは文句を言われることが無くなりシフト通りに仕事をこなすようになっていた。当然だけど、休憩が佐倉君と合うことも少なくなった。
そのせいか、目がたまたまあった時は会釈をするけど、それ以外は特に声をかけることも無く……ただただ、日にちが過ぎていた。
シフトが合えば、帰りは一緒に……なんてことになるのに、どうしてか銀木さんと出会った帰り道以後、佐倉君とは全くシフトが合うことが無かった。
「はぁ……」
「ちょっと、美月さん。どうしたんすか? ため息なんかついちゃって。俺で良ければ相談に……」
「二谷さん。えと……」
「あーダメダメ! こいつに相談は絶対駄目!」
「うわ、何かひでえ。俺だって男の気持ち代弁出来るのにー」
「しっしっ……あっち行って」
カンナさんに追い払われるようにして、二谷さんは向こうの方へとぼとぼと行ってしまった。ホールの先輩たちはわたしや佐倉君をよく見てるみたいで、何かと困った時には口出しをしてくれていた。
「カンナさん、どうして二谷さんはダメなんですか?」
「あいつ、ああ見えて軽すぎるから駄目。とにかく、ここでため息はやめてね」
「ご、ごめんなさい」
「アレでしょ? 佐倉と何かあったんでしょ?」
「ち、違うんです。何も無いから困ってるんです……」
「は? 何もない? と、とりあえず、次の休憩一緒だからさ、話聞かせて?」
「はい」
休憩時間――
シフト上、一緒に休憩に入る人は決まっていて、今日はカンナさんと同じ日だった。
「で、あいつと上手くいってないの?」
「い、いえ……あの、まだ付き合ってるわけじゃ……」
「うん、知ってるよ。そうじゃなくてもそういう質問になるから気にしないで」
「あ、はい。一昨日、一緒に帰ったんですけど、途中で知り合いと言うか男友達が声をかけてきてから、佐倉くんはあまり機嫌が良くなくて、それでそのまま今は……シフトが合わずに……」
「ははぁ~なるほどね。男って嫉妬心が高いからね~。その男友達が走って来てまで美月ちゃんに会いに来てたんなら、内心ムカついてたと思うよ。しかも帰り道に偶然? ん~偶然……か」
「え? 何か……」
「ううん、気にしないで。私の憶測だから。それで、今は一言も話してないの?」
「……はい」
「んーまぁ、仕事中はさすがにね。シフトもその日以来合ってないんだ?」
「……そうです」
きちんと毎日確認しているわけではないけれど、佐倉君と同じ日で、しかも休憩が合う日が少なくなっていたのは何となくおかしい気がしていた。
「避けられてる……のかなぁ? んーでも、そんな細かいことするような奴じゃないんだけどなー」
「で、ですよね……わたし、佐倉君の連絡先も聞いてないので、話しようが無くて」
これまでそういう機会はあったはずなのに、今の今まで、一度も連絡先を交換していなかった。
「せっかく美月ちゃんが明るくなったのに、佐倉とそうなってるのはわたしたちも心配だし、分かった。私がそれとなくあいつに聞いてみるから、あなたは仕事に集中しててね」
「あ、ありがとうございます。すみません、なんか……」
「いいのいいの! 同じ職場でそういう関係の子たちがいても不思議じゃないし、それが悪い方に行く方がウチラも困るしね。じゃ、戻ろっか?」
「はいっ」
分かりやす過ぎたわたしのため息で、ホールの先輩方には気を使ってもらってしまった。だけど、本当に佐倉君とは話も出来ずにいる。こればかりはカンナさんを頼るしか方法は無いみたいだった――




