空回る想い……
微妙な関係?
「紗綾さーーん!!」
「あっ」
「……誰?」
声のする方をふたりで振り向くと、見知った顔の銀木さんが手を振りながら、こっちへ走って来ていた。あれ? でもどうしてこっちに……しかも何故今なの?
「はぁはぁはぁ……いゃぁ~久しぶりっすね! どこかで見た顔だったんで思わず走って来ちゃいましたよ」
「こ、こんにちは。どうしてここに?」
「いや、先輩が近くにいて打ち合わせと称した飲みがありましてね~そういえばこの辺に紗綾さんがいたなぁと思い出したんですよ。会えるとは思ってなかったんですけどね! はははっ」
「そ、そうなんですね。そんなもったいないこと言わないでください」
「ところで、彼は?」
「えと……」
「同じバイトの佐倉」
「お、そうっすか! よろしくです! 俺は銀木です。芸名よっしーなんすけど、知りません?」
「……興味無いので」
「ですよね~……すんません! お邪魔でした?」
「……さぁ」
あー……どう見ても邪魔されたって顔してる。何か言いかけてたし、佐倉君は性格上あまりうるさいと言うか、騒がしそうな人と合わない気がする。
「えと、銀木さんはマキの幼馴染で、友達……なんです」
「あ、そう」
「で、そうそう、今度ファミレスに行くって言ったときあるじゃないですか。アレ、やっぱ俺一人だけで行こうかなと思いつつ、マキも一緒でいいすか?」
「……わたしはそれでいいですよ」
「ざっす! 俺一人だけだと明らかに紗綾さんに会いに来てるみたいで何か、あざといじゃないすか? さすがにそれは控えようかな~なんて思いまして」
「今ここに話しかける為だけに走って来てる……それだけですでにあざといと思うけど」
「え、あー……ですよね。すんません! じゃ、俺はまた!」
「えっ? あ、はい。また」
言いたいことだけ言って、すぐにこの場からいなくなってしまった銀木さん。と、明らかに機嫌を損ねている佐倉君。間が悪いというか何というか……さっきまでのわたしの緊張感はどこへ行ったんだろう。
「あの芸人、面白いの?」
「んと、ライブを何回か見に行ってて、結構面白くてそれで……」
「ふーん……どういう繋がり?」
「さっきも出たけど、マキの紹介で」
「あぁ、あの人の。彼氏ってこと?」
「ううん、付き合ってないです。ただの友達で……」
これは本当のことだし、ライブ行ってその流れで話をしてるだけでそれ以上進むことがないし。
「……にしては、何か……」
「――え?」
「いや、何でもない。美月さんはあの芸人に下の名前で呼ばせてるんだ? それは気を許してるってこと? それとも……」
下の名前で呼ばせてるというよりは、勝手に呼ばれてるからそのまま放置してるだけで何も無いけど。人によっては何か特別な意味に思えるのかな?
「名前は別に……どっちかと言うと美月で呼ばれた方がいい、です。あの、佐倉君……何か、怒ってる?」
「何を?」
「何か……その、不機嫌なように思えて……」
「……別に何も無いけど。美月さんにちょっと言っときたいんだけどさ、美月さんはあの芸人とどうなりたいとかあるの?」
「どう……って別にそれは……」
やっぱりさっきまでと様子がおかしい気がする。どうしてそうなるの?
「俺、最初に言ったよね? 作り笑い……は直ったけど、思わせぶりな態度で相手にそう思わせるのはよくないって。さっきのあいつ見てたら気になった」
「そ、そんなことは……」
「分からない?」
「……んん」
銀木さんが声をかけてくる直前までは、確かに雰囲気が良かったのにどうしてまたこんな……
「もうすぐ美月さんの家が近いだろうし、俺はここで」
「あっ」
どうしてかな? 近付いたと思っても、その先に近付けなくなっているのは何故? 最初の頃よりも恋することに臆病になっているのかな――