月の人たち
溝を埋める。
「そんな胡散臭い笑顔でホール出れると思ってんの? いい加減、努力してみたら?」
「やってますけど? あなたの方こそ、態度が顔に出てるんじゃないんですか?」
昨日の帰り道から、わたしと佐倉君は最初の最悪な頃に戻ってしまった。悪いのはわたし?
「ちょ、ちょっと、あのふたりどうしたの? 何であんな険悪に……」
「さ、さぁ……」
「いい感じになって来たように思っていたのに何があったんでしょうね……」
奥の方で笑顔練習をしているはずの美月、俺の様子があまりに不穏すぎるせいか、ホールにいる先輩方はおろか、キッチンの人たちまでもが雰囲気に気付いていた。
「人のせいにすんなよ。あんたがいつまでも改善しないからホールが回らないんだよ! 面倒くせえな」
「ホント、酷い人ですね。見損ないました……そんな人だなんてがっかりです」
「はぁ!? 勝手に見損なうとか……」
「あの~? 佐倉君、君にお客さんが来てるんだけど、いい?」
「……分かりました。すぐに行きます」
ムカつく~~~!!! 笑顔が出来てないのはわたしだけじゃないじゃない!! 何なの? ホントに。
※
「さくらちゃん、今休憩取れる?」
「マキさん……? なんすか? あんまり暇じゃないんですけど?」
「そんな事言っていいのかなぁ? 久しぶりにあの子が私に会いに来たんだけど、さくらちゃんにも会わせようと思ってるのに」
「は? 誰のことです? 俺、忙しいんで……」
ウザい先輩の言うことに付き合ってられない。そう思った俺が奥へ戻ろうとした時だった……
「えっ……?」
「あっ、マキちゃん! 来たよ~」
嘘だろ? な、何でこの店に月渚さんが……
「ほら、さくらちゃん、会いたがってた月渚が来てくれたよ? 休憩取って来なよ。あ、あと、サーヤも呼んでくれる?」
「え? 美月さんもですか? 何で……」
「んー何となく」
「えへへ……マキちゃん相変わらず変わらないんだね! 何か、嬉しいかも~」
「あんたもね。それにしてもこの店の雰囲気一変させるくらいの存在感は健在だわ……」
「そうなの~?」
な、何で月渚さんがここにいるんだ? 夢か? て言うか、まるで変わらないしみんな月渚さんのこと見てるし何なんだこの人……くそっ、思い出させるなっての。
「あ、あの……わたしもご一緒していいのですか? し、知らない方なのに」
「んー? いいんじゃない? ね、月渚」
「うわ~可愛い子! お名前なんて言うんですかっ? わたしは月渚って言います!」
えっ? この人が噂の月渚さん? 全然わたしと違う……マキと同い年のはずなのにって言ったら怒るかもだけど、月渚さん可愛いすぎる……確かに男の子は夢中になりそうな感じがする。
「わたしは、美月紗綾です。よ、よろしくおねがいします」
「わたしと同じ月の人だ~綺麗なお名前! よろしくね、美月さん」
握手を求めて来たし、何か天然な感じがするし……そっか、確かに佐倉君は怒るよね。わたしとはまるで違う感じの人だもの。うん、やっぱりわたしから佐倉君に謝ろう。そしてもう一度――