あの子と同じ?
興味が出て来た。
「紗綾さんはここのバイトは長いの?」
「いえ、わたしまだ新人なんです」
「おー! じゃあここに来れば初々しい紗綾さんが見られるのかな?」
「ど、どうなんでしょうか」
もしかしてお店に来てくれるのかな? 銀木さんなら嫌な感じがしないし、むしろ来てくれたら嬉しいかもしれない。顔を見せてくれただけで自然と顔がほころびそうな気がする。
「じゃあ今度、芸人仲間連れて食べに来ますよ。あ、でも、ドリンクバーだけでいいっすか?」
「ふふっ、それは大丈夫ですよ」
「いいっすね! じゃあ、今度は仲間連れて来ます」
「はい、是非」
仲間を連れて来る……か。芸人さんらしいといえばらしいけど。一人では来てくれないのかな? それともわたしとはあくまで友達って感じなのかな。もっとふたりだけで話がしたいけど中々そんな機会が無い気がする。何だか寂しい……そんな感じ。
何となくそう思って視線を下に落としてしまうわたしに、すぐさまマキが気付いて声をかけてきた。
「由宇、あんた空気読めないよね~。そういう時は一人で会いに来ますとか言うもんでしょ?」
「あ、あ~……いやぁ、何か恥ずかしいなぁなんて」
「照れる年齢かよ!」
「だれがオッサンだ! 誰が!!」
「言ってないですよ」
「そこはホラ、ノリツッコミを……」
なんてやり取りをする拓斗と銀木さんを見て何となくおかしくなって笑えた。優しくて裏が無くて、笑いが面白くていい人なんだけどなぁ……
※
「佐倉くん、あんたさり気なくテーブル拭きに言って声かけてきたら?」
「は? 何で?」
「んー何か、一見楽しそうな席だけど、美月さんが寂しそうな感じがするんだよね~」
伊達に歳食ってない……って言えば怒られそうだけど、微妙な表情で分かるものなんだな。声をかけるって、何をかけろって言うんだよ。
「俺にどうしろと言うんです?」
「適当にシフトのことでもいいし、明日のことでもいいじゃん。ほら、行きなって!」
「面倒くさいな……でも、少し気にはなってたけど」
カンナさんに言われて行くのが癪だけど、俺は彼女たちの席に近付き、声をかけた。
「追加のご注文はございますか?」
「えっ? あ、佐倉くん。ううん、大丈夫。ありがと」
「恐れ入ります」
なんだ、元気そうだな。と言うか、俺の顔を見て嬉しそうに笑うのは反則だろ……
「あっれ~~? もしかしてさくらちゃん?」
うっわ……やっぱり、ばれた。最悪だ。しかもその呼び方マジでうざい。
「どうも……」
「なになに? サーヤと同じとこで働いてんの、あんた? へぇ~ほぉ~? なるほどね。確かに、あの子に雰囲気似てるもんね。美月と月渚……名前も似てるものね」
「ちげぇし……俺、戻るんで」
「マキ、月渚さんって?」
「あぁ、うん。私の大学の時の友達で溝江月渚って子がいるんだけど、その子はものすごいふわふわしててさ。すごい可愛かったんだよね。まさに今のサーヤみたいに!」
「あれ? マキって専門にいたよね? 大学に行ってたんだ……そ、そういえば本名知らない気がする」
「そうだよ。私、大学行って内定決まってたけどそれやめて専門通ってたの。私は藍田真輝って名前。言ってなかったっけ? 今さらだけどごめーん。で、さくらちゃんは大学の時の後輩なわけ」
「そ、そうなんだ」
ひょんなことから、佐倉君の過去が知れたかも。そして、月渚さんって人のこと……好きだったのかな? そんな話をマキから聞けるとは思ってなかったけど、何だか佐倉君のことをもっと知りたいと思ってしまった。
銀木さんとは恐らく友達以上になれない。そんなことを自分で決めてしまったこともあってか、マキの話を聞いたこの日から、わたしは佐倉くんのことが急に気になりだした――