男子サイド②佐倉恵
もしかしたらそうなのか?
「ここはそう言うお店じゃないんで!」
うわ、何か最も言いたくないセリフを吐いてしまった。何言ってんの俺! そういうタイプじゃないだろ。だけど、分かりやすかったんだよなあの客。相当我慢してたのか知らないけど、明らかに手を出しそうだったし。美月さんは終始怯えてるし……怒られるの覚悟でやるしかなかった。
そりゃあ、店長に言われるよな。お客様に手を出したらさ。でも、仕事としてやったのは事実。そこに彼女への気持ちを入れたわけじゃ無い。ってことを伝えたらお咎めが無かった。これは運がいい!
と思いきや、何故か美月さんの専属教育係に任命された。何でこんなことに……
「あんたに付きっきりで面倒見るから。もちろん、帰りも送る。仕事の一環だから気にしなくていいよ」
誤解を抱かれて変な気持ちになられてもお互い困るし、ここは仕事ってことで納得してもらおう。考えてみれば女の子とこんなに近くでしかも、付きっ切りで相手することなんて無かったな。
「だから~笑顔が硬いんだっての! 自意識過剰なのに鏡見てないの?」
作られた笑顔はきっとあの客の影響だ。この子に罪は無い。そんなのは分かってるけど、何か知らないけど強い口調になってしまう。嫌われたいわけじゃ無いんだけどな……
ま、初対面であんな自己紹介?をすれば相手もそんな感じで見て来るから楽と言えば楽だけど。しかし、見れば見る程勿体無いくらい綺麗な顔立ちしてる。それが変な影響をくらってあんなことになるなんてな。
「優しいだけの男は胡散臭い」
まるで以前の俺じゃん。よくそんなことを美月さんに言えたよな。事実そうだったけど。だから上手くいかなかったけどさ……
しばらく仕事として彼女を途中まで送っていた俺だったが、そろそろ彼女も笑顔がマシになってきたし、お役目も終わるのかと思うと妙に寂しさを覚えた。
そんな時、美月さんはオフなのに店にやってきた。連れと待ち合わせらしい。まぁ、いるよな友達位。って思ってたら見たことのある顔と、またしても現場系の男、そして誰だ?
「ご注文は?」
何だこの男たち……彼氏? いや、元カレ……にしては一人は年上か。と言うか、大学の先輩のマキさんかよ。この人が美月さんの友達なのか? 当時から世話焼き姉さんだったけど、今も健在か。
「佐倉くん、美月さん取られちゃうよ~? いい加減、嘘の態度をやめたら?」
「違います。そんなことは無いんで。ってか、何でそうやってすぐくっつけたがるんですか?」
「傍目から見てればすぐ分かるものだよ? 教育係の佐倉くん」
だから嫌なんだよ。ホール人数少ないし、俺より年上の先輩は世話焼きばかりだ。それにしても、美月さんは本当にいい笑顔をしているな……あのふたりのどっちかか。
次の送りの時にでも、何か話をしてみるか。好きじゃないけど気になる彼女に――