男子サイド①佐倉恵
気になった。
大学入ってても暇。遊びに行く連中とは趣向が合わない。それよりは仕事してた方が楽かも。そう思って、以前やってたバイトに出戻りすることにした。夏からなら大学で下手な誘いも受けなくて済む。
「出戻りですが、またよろしくお願いします」
出戻ったファミレスは当然だけど、”先輩”たちが変わらず出迎えてくれた。
「佐倉くん、お帰り。元気? 彼女出来た? 可愛い子入ったよ~」
「あの子はイイ子だよ。佐倉も気に入る! 俺のオススメ」
「彼女いないなら狙っちゃえ!」
ホールのお節介トリオが好き勝手に言って来た。彼女がいないのは別に作ろうとする意識が無いからであって、誰が入って来ても意識することなんて無い。そう思ってた。
ああ、確かに先輩たちの中に一人だけ雰囲気の違う新人が入ってるな。なんて、思いながら近付くと……どうにも違和感を感じた。通常、どんなに愛想が無くても仕事って意識すればそれ用の笑顔は誰でも作れるはずなのに、彼女のソレからは何と言えばいいか分からないけど、心の無い笑顔に見えた。
さすがにそれは無いよな。なんて思っていたせいか、初対面で新人の女の子に向かってキツイことを言ってしまった。
「あんた、作り笑いやめたら? 自意識過剰すぎるんじゃないの?」
さすがに怒ってたな。いや、でも気になるだろ。普通にしてれば可愛い子がどうすればあんな機械的な笑顔になれるんだよ……と。
その子は美月紗綾って名前の女の子だ。そういえば俺のちょい先輩……もう卒業したけど、月を使った名前の女性がいたな。あの人はおかしいくらいの天然ふわふわ女子だったけど、男も女も許してやれるような笑顔だったな。美月さんはその人とは全然違う……何かがあったからか?
ホールに入ってすぐに気付いたのは、美月さんが特定の客が来ると途端に怯え出して、誰かと交代するということだ。その間、彼女はカウンター越しでサボってる?ようにしか見えない。
「あんた、何サボってんの?」
「ち、違います。サボってなんかいません」
いや、ただの言い訳じゃん。何をそんなに怯え……あぁ、アレか。現場系の連中は見た目と中身は違う人もいるけど、確かに怖そうではあるよな。しかしそんなんじゃ他の接客もままならないんじゃ?
数日経って、気付いた。美月さんのことをやたらと見ている男がいることを。だから現場系の人を避けているのか。それにしたって見過ぎだろ。しかも胡散臭い笑顔を彼女に振りまいている。
いや、あの笑顔……美月さんの笑顔に似てる気がする。ってことは彼氏か何かか? 近いうちにあの男が何かしそうな予感がしてならない。そう思った俺は、彼女にどう思われようとあの男を止めなければいけない。そう決意した。
美月さんにそういう感情はない。だけど、気になる存在だし、同じバイト仲間の子が傷つくのを黙って見るのはどうかと思う。
そして、彼女が休憩を入れて男に近付くとその瞬間が近づいた。そして俺は無意識に――