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憂うことなく

                 気になってる?



「いらっしゃいま……あれ? 冷やかし?」


「ち、違いますよ。今日はあの、客です……」


 ああ、そっか。わたしが休みの日は当然だけど、佐倉さんは普通にホールに入っているよね。でもよりにもよって、ホールなんだ……


「ご注文は?」


「えっと、連れが3人来るまでここで待たせてもらっていいですか?」


「あぁ……そういうことか。ごゆっくり」


 しばらくして、約束の時間に拓斗たくと、マキ、銀木しろきさんが店内に入って来て席へ案内されている。


「こ、こっちです!」


 声をあまり大きく出すことの無かったわたしが出したことで、ホールのスタッフみんなは苦笑いをしていた。そんなに珍しいことなのだろうか? それとも意外に思われたかな。


「サーヤ、元気そうだね」

「だな」

「先週ぶりっスね、紗綾さあやさん」


「は、はい。こんにちは」


「って言うか、結構ライブ行ってるんだね。あんた、お笑いにハマった?」


「ううん、そんなことないよ。わたしが行ってるのは銀木さんが出てるライブだけだし」


「有難いっす!」


「へぇ……上手くいきそうだな」

「でしょ」


「何が?」


 何のことか知らないけれど、マキと拓斗はふたりでニヤニヤしていた。銀木さんは周りをきょろきょろしながら、メニューを食い入るように見ている。


 それぞれ頼みたいものが決まり、呼び出しボタンを押すと、佐倉さんが注文を取りに来た。


「どうぞ?」


 手早く注文を打ち込んで、すぐに引き返して行く佐倉さんだったけど、何か気になることでもあるのか、拓斗と銀木さんを見ていたようにも思えた。


「美月、この場を借りて謝っとく。その、ダイキのこと……悪かった。あいつのことで何て言うか……」


「ああ~……」


 そう言えばそうだった。って言う位、彼のことは忘れてた。そっか、それで拓斗が話をしに来たんだ。


「もう気にしてないし」


「でもアレだろ? この店に何度も来てたんだろ? しかも、無理やり手を出そうとしたとかって……あんな奴とは思わなかった。マジですまん」


 実は佐倉さんに止められて以来、彼はこのお店に来ることが無くなっていた。それがショックだったのか、もしくはさすがにやりすぎたのかは分からないけど、彼に対する不安はほとんど消えていた。


「大変だったねサーヤ。でももう、大丈夫だから安心して」


「マキは何か知ってるの?」


 銀木さんだけがポカンとしていて申し訳ないと思いながら、言葉の続きが気になった。


「うん、井塚いづかさんは地方に行ったよ。だから都内にはいないから心配ないよ!」


「え? そ、それは何かあって?」


「まぁ、アレだよ。美月と頻繁に会っていた時にも注意されてたらしいけど、あいつ、結構サボってたんだよ。もちろん、美月のせいじゃないぞ? 考えて貰えば分かるけど、現場は休みなんてほとんどないんだ。まして、完成前はピークに近い。そんな時にサボってたからな~そりゃあ会社も処罰する」


「そ、そうなんだ……」


「あの~俺が入っちゃいけない話だと思うんすけど、それって紗綾さんの元カレの話っすか?」


「違います!」「いや、元カレは俺」


「あ、あら? 元カレは拓斗さんだったんすか。それは意外ですね~全然合わなそう」


「結構、キツイこと言うね銀木さん。まぁ、現場の人間と付き合うのは珍しいかもですけどね」


 今にして思えば確かに、現場というか職人をしている人との付き合いは稀だったのかもしれない。少なくとも悪いことじゃなくて、いい面も見たからわたしにとってはいい経験だったけど。


 それにしても、地方に行ってたんだ。じゃあ、佐倉さんに送ってもらわなくてもいいんだ……そっか。むしろ、今日これを聞くまでは分からなかったことだから、佐倉さんにもお礼をしないと駄目かも。


 そんなことを思っていると、拓斗とマキはふたりだけ話し始め、銀木さんとわたしだけが話をするようなカタチになって行こうとしていた――

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