ほんの少しの変化
変化
「いらっしゃいませー」
「ん? 何か、前より顔がマシになった?」
「な、何ですかソレ! ヒドイこと言わないで下さい」
「あ、言葉が足りなかった。前よりも表情がマシになって来たかもって言いたかった」
「それならそうと言って下さい。女性にそんなこと言うの、どうかと思いますけど?」
わたしは今日もホールに立たせられることなく、教育係こと、佐倉さんに指導を受けている。マキから紹介された、芸人の銀木さんの定期ライブを見に行くようになってから、確かに以前よりは笑うようになった。だからなのか、お店での特訓にも変化が出て来たのかもしれない。
「ご、ごめん」
「あ、はい……」
あれ? 案外素直に謝って来るんだ。意外……
「よく知らないけど、いい傾向なんじゃないの? いい趣味とか、彼氏とか出来て表情豊かになった?」
「か、彼氏なんていませんよ。そんなまだ……そんなの」
「ふぅん……まぁ、俺には関係ないけど。どの道、そろそろホール出せそうだしその辺は平気なのか?」
ホールに出たら当然だけど人前に出るから、接客することになる。つまり、彼が来ても平気なのかという意味だと思うけど、もうわたしの中では終わってることだし何も関係ないからそれは大丈夫だろう。
佐倉さんって言葉は悪いけどもしかして意外といい人なのかな? 出会いこそ最悪だったけど……
「ところで帰り道は一緒に歩いてくれるんですか?」
「あ、ああ……仕事だし。まだ不安だろうから、俺が途中まで送る」
「優しいんですね佐倉さんって」
「義務だから。そういう感情じゃないから」
こういうのを何て言うんだっけ。あ、素直じゃない。だったかな……たぶんそんな感じ。
※
「美月さん、入って来た時よりもいい表情してるね! もしかして好きな人でも出来た?」
「そ、そんなじゃないですよカンナさん」
「そっかそっか~教育係も案外、役に立ってるわけか。よかったじゃん?」
「そういう茶化し、マジで要らないんで」
「ま、とにかくさ、今はそんな忙しい時期じゃないけどもうすぐ夏休みに入るし、ふたりがホールにいないと困るわけ。だから、佐倉くん頼むね」
「分かりました」
あ、そうか。わたしと佐倉さんが抜けてる分は三人で回してることになるんだ。そっか、わたしが迷惑かけてるんだ……笑顔が機械的だったせいで他の人に負担が行ってたんだ。
「……別に美月さんだけが悪いわけじゃ無い。俺がお客様対応を誤っただけだし、あんたが責任感じる必要なんて無いから、頭下げて落ち込まなくていい」
「で、でも……」
「せっかく人っぽくなってきたのに暗くなってどうするの? そのままいい表情続けてくれれば、肩の荷も下りるし、仕事に戻れるからそこん所、頼むわマジで……」
「だから、言葉おかしくないですか! 人っぽいとか!」
「ははっウケる」
教育係として数日が経っていて、ようやく少しだけ打ち解けたような気がする。わたしの笑顔が自然に戻ると同時に教育係も解かれるのかな? そんなことを思いながら、笑顔の練習を続けた――