何がキッカケになるかは分からない。
まずは友達から
マキと、芸人さんの銀木さんに大げさに案内されて、わたしはお店に入った。と言っても、お洒落なお店ではなく、丼物屋さんだったけど。
「いやーすんません、金厳しいんで」
「あ、いえ、わたしもそんなに高いお店には……」
「まぁ、サーヤはカフェとかファミレス……特にカフェしか行ってなかったから、いいでしょ? たまには丼物屋で食べるのも」
「何食べます? 俺、並盛の豚で」
「じゃあ、ミニの牛を……」
「へぇ~食、ほっそいッスネ! さすが女の子は違う。マキとは種類が違いすぎる」
「はぁ? どこがどう違うって?」
何だかおかしなふたり。このやり取りを見てるとまるで夫婦漫才みたい。でも、拓斗の時とは違う感じだけど、どういう関係なんだろう。
注文した丼が目の前に出されると、彼はわき目も振らずに、ガツガツと音を出して食べ始めた。なんか、すごいかも。
「面白いでしょ。コイツ、これが素なんだよ? 何も隠さない、見栄も張らない。欠点は貧乏ってくらいかな。売れるまでが中々大変だよねぇ」
「話には聞いたことあるけど、やっぱりそうなんですね。何だか、尊敬です……」
「サーヤ、尊敬なんかしなくていいからね。コイツ、事務所入ってるだけであんまり努力してないんだし。言っちゃなんだけど今はライブでしか活躍してないから」
「うわっひでぇ! ライブ出るだけでもすごいことなんだぜ? 紗綾さん、全然尊敬してくれて構わないっす」
わたしのこと初めて名前呼び……変わった人だけど悪い人では無さそう。でも、本当にどういう関係なのかな? 不思議に思いすぎて、マキと銀木さんを見つめてしまう。
「あっ……そうだった! コイツ何なの? って思ってたよね。えーとね、コイツは私の幼馴染って言えばいいのかな。そういう関係で、それで今回……サーヤに紹介したいって思ったの」
「は? もしかして何も話さないで呼んだのか? この子の疑わしき目を見ろよ! 訳わからず連れて来られた子犬みたく震えてるじゃねえかよ。マジかこいつ……」
「サプライズって奴じゃん? そんなことも察せないなんて本当に駄目ね~」
「は、はぁ……あの、マキは……わたしに銀木さんを紹介? ってことで合ってる?」
「うん、正解。もちろん、無理にとは言わないし、今すぐ返事をしなくてもいいからね。何て言うかさ、サーヤには幸せになって欲しいって言うか、いつも笑ってて欲しいな……なんて思ったの。ほら、あの……」
そっか、わたし結構顔に出てたんだ。どうりで職場でも注意受けちゃうわけか。でもマキには直接関係ないし、そこまでわたしに対して負い目を感じることなんてないのに……
「紗綾さん、コイツも俺もバカなんですよ。でも、バカはバカなりに他人のことはよく見てて、で、何だか世話を焼いてしまう。友達の存在を大事にする特異な人間なんですよ。マキは最初からウザかったでしょ? で、強引に事を進める。俺も似てるんですけど、どうすか……友達になりませんか?」
「誰がバカだ、誰が……!」
「マキちょっと黙れ!!」
「クスッ……面白い、です。ふたりとも。あの、友達から……お願いします、銀木さん」
「おお! マジっすか!! いやー良かった。それじゃあ、次のライブにも是非!」
「はい、休みが合えば是非行きたいです」
「良かった~サーヤが元気になって。由宇、あんた……サーヤ泣かせたらただじゃ済まさないからね? オーケー?」
「はいはい、当然のことを言うなっての! じゃ、紗綾さんまたです!」
そう言うとすぐに店を出て、どこかへ急いで行ってしまった。忙しいのに来てくれたのかな?
「ごめんね~あいつ、一応忙しい奴だから駅まで送れなくてごめん。で、どうかな?」
「マキの幼馴染……でしょ? それなら悪い人じゃないかな。ライブだけかと思ったら素でも面白い人だから何だかホッとした気がする」
「そっか。それなら良かった。じゃあ、駅まで一緒に行こ?」
「うん」
マキの呼び出しと突然の紹介に驚いたけど、面白くて変わっている銀木由宇さんと友達になれた。年上とか関係なく、親しみを感じられた。これも一つのきっかけとなるのかな――