友達の紹介はどうなのかな?
今は、そんな気には
「サーヤーこっち! そろそろ開場するからお金払ってね」
「う、うん」
マキから誘われてわたしは中野に来ていた。わたしはあまり行動範囲が広くないのに対して、マキは色んな所に行ってるらしく顔も広いみたいだった。料金を払って、素直にお笑いライブを見ることにした。
笑いの沸点が低いわたしでも、面白い芸人さんが出た時は思わず口元から笑い声が出てしまう程、夢中になれた。気分転換にはなったかな。
「良かった。サーヤが素直に喜んでくれて安心した」
「うん、こんなに笑ったの久しぶり。ありがとマキ。気を遣ってくれてるんでしょ?」
拓斗のこと、井塚さんのことも含めてマキはわたしを元気づけようとしてくれたと言うのが、今日の誘いなのかなとすぐに分かった。
「いやー……何か、さ……大変だったみたいね。イケボ君があんな……ねぇ」
「終わったことだから。それはもういいよ」
「そっか、それ聞いて紹介のしようがあるわね!」
「紹介?」
そう言えばらいんにもそんなことを書いていたけど、誰を紹介するの? 顔の広そうなマキだけど、もしかして男の人? でも今はバイトもあるしそんな気にもなれないんだけど……
ライブが終了し、客との距離が近い芸人さんたちはこぞって写真撮影に応じたり、話をしていた。そんな中、さっきのライブでわたしが一番笑顔になれた芸人さんらしき人がマキを見かけて向かって来る。
「よっしー、こっち~!」
「ども」
さっきと違って見た目、大人しそうな人だけどこの人のこと?
「サーヤ、ここ人も多いし下降りて外へ出て」
「う、うん」
言われた通りに下の階へ降りて、外へ出たわたしたち。
「じゃ、紹介するね。こっちはわたしの友達のサーヤ。本名は……自分でよろしく~! で、彼は芸人の、よっし~こと、銀木由宇君。歳は25だったかな」
「まだ24。そこ重要だから! 銀木です、ども」
「あ、えと……美月紗綾です。歳は19……です」
「おいマキ! 年下の子連れて来て大丈夫なの?」
「あっれ~? 好みなのは下だったよね? じゃあ、帰ろうかサーヤ」
「えっ?」
「いや、待って。問題なし! てか、タイプです……はい」
「素直に言いなって。全く世話が焼ける……じゃあ、とりあえずご飯食べ行こ? サーヤもいい?」
「う、うん」
よく分からないけど、屈託のない笑顔で表情がコロコロと変わりつつも、マキとのやり取りがすでに漫才っぽくて見てて飽きない人かも。
マキと銀木さんがズンズンと先導して、お店へ向かって歩いて行く。何だかその姿を見てるだけで和んでいるわたし。マキが何を紹介するのかなんて、予想出来つつも気分良くふたりの後を追った――