最悪の出会い!
作ってない!!
「いらっしゃいませ~何名様ですか? こちらへどうぞ」
以前、わたしと彼らが食事をしたことのあるファミレスでわたしはバイトをしていた。別に大して意味も無いけれど、ここがわたしの家から近かっただけ。
昼間も夕方も絶え間なく来てくれるお客さんを相手しているだけで、気が紛れているのも事実だった。それでも、恋愛話は働いている人達で一番盛り上がるみたいで、特に新人のわたしは聞かれてばかりの毎日。
「美月さん、彼氏いないの? 勿体無いなぁ……」
「俺もそう思う。俺ならフリーよ? どう?」
「あ、いえ……ごめんなさい」
「この子、困ってるよ? やめてあげたら」
客足が途絶えると、ホールのみんながそういう話で盛り上がるのが、ここの特徴。女性に告白するもいつもフラれる二谷さん、先輩のカンナさんと久留美さんの3人が中心になり、わいわいしていた。
「いらっしゃいま……」
……彼がいるわけじゃないけど、ここのファミレスは現場の人たちがよく来る場所でその格好の人たちが来る度に、わたしはホールを一時的に交代してもらっていた。
どうしても苦手意識が表情に分かりやすく出てしまい、見かねた先輩がそうしてくれていた。こんなつもりじゃなかったのに、何よりもその人たちは何も悪くないのに。
「美月さん、現場の人の誰かと失恋でもした?」
「……ごめんなさい」
「あー……うん、いいよ。気持ちは分かる」
分かっていても、簡単には忘れられていないのが正直なところ。第一、もし偶然でも再会したらどんな顔をしたらいいのかなんて、わたしには分からなかった。
わたしよりも年上の女子がいてくれてよかった……ただ、それでも忙しい時はこんな甘えも許されることなく、ホールに出なければいけなくて、そして――
入って来た数人の人たちの元へ注文を取りに行くと、かつての友達と再会することになる。まるで必然とも言うべきに――
「こんにちは美月さん」
「あ、はい……」
「あ、注文いいかな?」
「す、すみません、どうぞ」
最後、文字だけで済ませた彼にわたしは合わせる顔がないのに……彼は、以前と変わらぬ挨拶をして来た。まるで表情を変えずに優しさを出して来る彼が怖くてたまらなかった。
拓斗のように直接会って話をすれば良かったのかな……なんて思っても、どうにもならないし、気持ちも元には戻らないのが現実。
そんなわたしに気付いたカンナさんが交代してくれて、わたしは奥へ引っ込むことが出来た。でも、このままこうしていたら、わたしはまた同じ失恋を繰り返してしまう。
そうならないためにも笑顔で出迎えないと駄目なのだから。そんなこともあった翌日、新たにホールに入ることになった新人の男の子がみんなに挨拶をしている。
次はわたしの前に来て挨拶をするのかな? なんて思っていたら……彼はわたしを見ながらキツイ一言を言って来た。そして、以降……彼とは顔を合わせるたびに口喧嘩をする関係になる――
「美月紗綾です。よろしくお願いしま……」
「作り笑いやめたら? 意識しなくても自分が可愛いって思いすぎなんじゃないの?」
「なっ……!? どういう意味?」
「そのままだけど? あぁ、一応挨拶しとくけど……俺、佐倉恵。俺はあんたみたいな自意識過剰すぎる女、好きじゃないんで以後よろしく」
な、なんなの!? 気分悪くさせないでよ! 女の子みたいな名前なのに何てキツイことを言うの? 絶対、合わない。合いそうにない……
初夏から始めたファミレス――
美月紗綾と彼、佐倉恵との出会いは、最悪の出会いだった――