嫌な予感。
発覚
「サーヤ~一緒に帰ろ! そして、付き合って」
「どこに?」
「もちろん、現場!」
「え? どこの……」
「まぁまぁ、付いて来てよ」
普段からテンションの高いマキだったけど、今日は更に張り切っていてわたしを誘って来た。しかも、現場に。マキもわたしと同じように、建築途中の現場を見るのが好きらしくたまに見ているというのは知っていたけど、今日はどことなく嬉しそうにしているみたいだった。
「ね、ねえ、どこに行くの?」
まさかと思うけど、拓斗やダイキさんのいる現場じゃないよね? わたしは拓斗があの現場に合流してから、ダイキさんに直接会うのをやめていた。何があるか分からないし、拓斗とも話しづらいから。
「いいからいいから」
嫌な予感は的中。マキが妙に来たがっていた現場は、まさしくふたりのいる場所だった。何で……
「ここにサーヤのイケボ彼がいるのは知ってるけど、最近別の人が増えててさ。それが好みって言うか、タイプなんだよね。ほら、あの子……」
マキが指しているタイプの子は……拓斗だった。よりにもよって……どうしてなのかな?
「え、あの人……? え、えっと、あの人は止めといた方が……」
「どうして? 格好いいじゃん! 即決! わたし、行ってくる」
「え、ちょっと!」
タイミング悪く、休憩なのかぞろぞろと職人たちが外へ出て来た。マキは拓斗の元に向かって行く。ダイキさんも拓斗と一緒にいるみたいで、わたしは顔を見せることを躊躇ってしまう。
わたしの躊躇いと戸惑いを知らないマキが、向こうからわたしを呼んでいる。嘘……
「ねえーーサーヤもこっちに来てよ!」
「……いま、行くから待って」
わたしの姿を見て、拓斗は気まずそうな表情をしているのが見て分かり、ダイキさんは苦笑いをしているみたいだった。
更に嫌な予感は当たり、マキはこのふたりの前で言ってはいけないことを軽く口にしてしまう……
「あ、こっちの子はサーヤ。私の友達なんですよ。しかも、ここにいる彼が彼氏みたいです。羨ましいですよね。それで、私……あなたと……」
「……誰が彼氏?」
「ここの、イケボの彼……お名前はダイキさん、ですよね? サーヤがお世話になってます」
あぁぁ……どうしてよりにもよって本人たちのいる前でそんなことを言ってしまうの?
「美月の彼氏がダイキ……? へぇ? 付き合ってんだ、お前たち……」
「ちが……」
「……いや、それは」
わたしもダイキさんも口を噤みながらも、かろうじて否定の言葉を絞りだす……
「ははっ同じタイミングで否定とか仲、いいんだな?」
明らかに場の雰囲気がおかしくなってきているのに、マキは拓斗を見つめながら告白を口にしようとしているみたいだ。
「でしょでしょ? だからさ、私とあなたも付き合いません? この2人みたく、ここで会いたいです!」
あっ……それも言っちゃうんだ……はぁ――
「ほぉー? ここでいつも会ってたんだな。それは知らなかった。それは羨ましいことで……」
現場が目の前なこともあって、拓斗は静かな口調でわたしとダイキさんに向き合っている。それでも、握りこぶしを作りながら、力を込めているようにも見えた。
ど、どうすればいいの――