そろそろ……かな?
今はこのままで…
「どう? 最近あのイケボ彼氏との仲は?」
「そ、そんなんじゃないのに……」
「でも好きなんでしょ? サーヤの顔に出てるよ。前に比べたらいい表情するようになったし、上手く行ってるって感じるよ」
「そ……うかな。そうなのかな」
正確には彼氏じゃないし、上手く行ってるかなんてわたしには分からない。でも、何も知らないマキから見たわたしがそう見えるってことはいいことなんだろうけど、それはどうなんだろうか。それでいいの?
わたしが望んでいた恋って、それなの? わたしが成人するまで残り8ヵ月――誕生日が来る12月までに、わたしは、理想の恋を出来ているのかな。成人式がある1月に、わたしの隣にいるのは誰なのだろう――
※
学校から出たわたしは、ダイキさんがいる現場に行くことが当たり前になっていた。最初こそ建築中の家を見ることが目的だったはずなのに、いつからかわたしの視線は作業に黙々と取り掛かっているカレの姿を追うようになっていた。
ここで仕事をしている他の職人さんたちもわたしを”彼女”として認識しているのか、笑顔で出迎えていた。そうではないけど、何だか申し訳なくもそれが嬉しい。
「美月さーん!」
「ダイキさん、こんにちは」
「や、ホントに参りますよね。俺たち、まだそんなんじゃないってのに」
「で、ですよね」
「あ、そ、そういえば……実はそろそろここの現場も完成が近くなってきてて内装にも取り掛かるんですけど、他の現場から人が増えるんですよ。だから、美月さんここに来づらいかもしれないですね」
「ダイキさんは外装担当なのですか?」
「それだけじゃないんすけど、ま、専門の奴を増やしたほうが工期に間に合うので」
「なるほど、そうなんですね~」
ふたりで話をしていると、噂をすれば他の現場から応援が来たのか、一台の軽ワゴン車が走って来て家の近くで止まった。そこからぞろぞろと職人らしき人たちが降りて来る。
「……えっ?」
降りて来た人の中で、彼の姿を見つけてしまった。そんな、まさか……どうして?
「美月さん、どうしました?」
「た、拓斗がここにいます……」
「え? あ……そ、そうか、他の現場でしかもあいつは内装も……」
「ど、どうすれば……」
ダイキさんに気付いたのか、拓斗がダイキさんの名前を呼んでいる。
「おっ? ダイキじゃね? お前、ここだったのかよ! マジで偶然だな」
「お、おー……拓斗か。よろしくな!」
「ん? そんな離れたとこで何してんだ?」
「あ、あぁ、ネコが迷い込んでて、ちょっと可愛がってた」
「ネコかよ! お前相変わらず、可愛い系好きだな」
「(ど、どうしよう……どうすれば)」
「(美月さん、ごめんちょっと)」
「――え」
拓斗から見えないように、ダイキさんはわたしを引き寄せてきた。わたしの全身は彼の胸に飛び込むような形でくっついている……
「ん? 俺もネコ見ていいか?」
「いやっ、悪い! すぐ戻るから……と言うか、休憩終わるし」
「それもそうだな。じゃあ、後でな!」
「ダ、ダイキさん……?」
「すみません、もう少しこのままで……」
咄嗟のこととはいえ、こんなに抱き締められるなんて思わなかった。顔を見上げると、ダイキさんの息遣いが感じられて、何となく動悸が激しくなる……
「やばかったですけど、何とかなりましたね……あ」
彼の顔がこんなに近くにあるなんて今まで無かっただけに、妙な気持ちになったわたしは思わず目を閉じてしまった――
「……美月さん、俺、戻るんで」
「あ……」
気まずくなったのか、ダイキさんは慌てて現場へ戻って行く。そ、そうだよね。拓斗が近くに来ているのにどうしてわたしは”それ”をされたいと思ったんだろう?
このままじゃダメですか、なんて言ったのはわたしなのにどうして――