近くにいても遠い関係。
駄目ですか……?
「ダイキさんのこと、わたし……好き、なんだと思います」
ダイキさんの告白に、わたしは答えを言葉にした。ただ、その表情を見せた時、カレは下を向いた。わたしは嘘がつけないと分かっていたからだ。
「美月さん……優しいですね。その優しさは、俺には辛い……です。いや、えっと、告白は忘れてもらっていいです。普通に考えたら、きちんとあいつと別れた後で言うべき言葉ですよね。なんか、すみません」
「――そ、そんなこと」
わたしとカレの頼んだ普通のコーヒーは冷めきっていた。それをカレは口にして、落ち着かせてるように思えた。そんな顔をしないで……わたし、ダイキさんにきちんと答えてない……
「頼んだコーヒー、冷たくなっちゃいましたね。これはこれで、美味しいですけど」
「ダイキさん……駄目、ですか?」
「な、何がです?」
わたしも、”けじめ”をつけるべきなのに、どうすればいいのかなんて……出せなくて、だけど……今、目の前にいるカレに言っておかないと駄目な気がする。
「今はまだ……ですけど、こ、このままの関係じゃ駄目、ですか? わたし、拓斗とは最初から曖昧な付き合いを始めたんです……でも、いつからか近くにいるはずなのに、遠くに感じるようになりました。わたしの想いが彼の元へ届いたかと思えば、届いていなかったりしていたんです。もちろん、それにはわたしがやったことが原因だっていうのも理解しています……」
「え? 美月さんがあいつにやったこと? そ、それは……?」
「キスを拒絶したこと、です……」
最初のデート。夜の観覧車……あの時は自分でも分からなかったけど、月を目の前にしてキスをされた自分を受け入れられなかった。それが拓斗のキスを拒み、涙まで流した理由。
そのことも含めて、2回目の出来事のこともダイキさんに話した。そしてカレは――
「あいつ、ガキなんですよ。雰囲気良ければキスが行ける。なんて、男は勝手に思っちまうものなんすけど、もちろんオレもそうです。だけど、今の話聞いてる限りでは一度目の拒絶で学習することなく、二回目ではその先をやってしまったってことですよね。それはさすがにないですね……」
「ご、ごめんなさい……」
「俺……いや、あいつの代わりにすみません。美月さん、悪くないんで。俺、あいつの友達ですけど年上なんで、その辺の事は俺の方が分かります。美月さん、19ですよね? 俺もそうですけど、あいつも全然ガキなんですよ。男は女性が思うよりもかなりガキです。なので、本当にすみません」
やっぱり、優しい人なんだ。この人となら……急がれることなく付き合っていけるのかな――?
「それでその、ダイキさん。わたしと……」
「……そうです、ね。そういう意味じゃ俺も急ぎ過ぎた感じっすね。今のまま、未満状態で俺とこれからも会ってくれますか? それで美月さんが良ければ……ですけど」
こうやって会ってることは恐らく、拓斗は勘付いてる。さすがに回数やなんかは気付いてないだろうけど、そうだとしても……わたしは、ダイキさんと一緒にいることの方がドキドキしてる。
「このままの状態がずっと続くなんて、もちろん望んでいません。けど、わたし、ダイキさんと一緒にいることの方が、ずっとずっと、好きなんです。だから、お願いします。今はこのままで――」
都合のいいことばかり言ってる。これって、男の人には酷なこと……だよね。
「もちろんです! これからもよろしくです。俺、待つんで。それに俺の事、優しいって言ってくれて嬉しいですけど、それが真実かどうかはわからないですから」
「あ、ありがとうございます」
優しさが真実とは限らない、か。今はそれでも、ダイキさんと会い続けたい。この先が見えなくても――