どうしたい?
彼氏じゃない、けど……
「おはよ、サーヤ! ねえねえ、この前のイケボ君、いいじゃん! 紹介してよ」
「そ、そんなんじゃ……ない」
「嘘が下手だね。サーヤは顔にすぐ出るよ? あんな優しそうな彼氏がいるならもっと頼ればいいのに」
「頼る……そ、うだね、今は頼ってるかも……」
「でしょ? 私も頼っていいけど、助けてほしい時は彼氏に相談しなよ。あなた、結構不安定なんだしさ。とりあえず、学校はやめないんでしょ?」
「あ、うん」
やめるタイミングを逃しただけなんだけど。でも今は、話せる人……まきが出来たし、ダイキ君とも連絡を取るようになったし、まだ……やめないかな。バイト……しないと。
「あ、そろそろ始まるね。じゃあまた後でね!」
わたしの選択クラスとは違うまきは、教室から慌てて出て行ってしまった。忙しない彼女を見ているだけでも、気持ちが落ち着く気がする。これが友達のいる日常ってことなのかな。
昨日、久しぶりに拓斗と会って話をした。けど、前と変わらない気がする。彼の口調も、態度も、出会った時と何にも変わらない。変わったのはたぶん、わたし――
拓斗は言い辛そうにしていたけど、好きなのか? あの質問はきっと拓斗自身のことを聞いたんじゃなくて、ダイキさんのことを聞きたかったんだと思う。わたしにダイキさんを薦めたのは他でもない拓斗自身なのだから。
※
わたしは学校が終わるとすぐに、カレのいる現場に行くようになっていた。拓斗の時は、現場近くのコンビニで会うだけだったけど、今はこうしてその人のいる現場に足を運んでいる。
普通は職場に顔を見せたりすることを嫌がる男子が多いみたいだけど、カレはむしろ、嬉しそうだった。そのことがわたしの気持ちにも影響し始めて、何の迷いも無く、仕事場に会いに行っていた。
「こんにちはー」
「美月さん、ども!」
「だいぶ、出来上がって来たんですね、お家」
「おっ、分かります? さすが美月さん。いつも来ていて分かるなんて、さすがっすね!」
ダイキさんはわたしを助けた時から、丁寧に話していたけど最近になってようやく、少しだけ素を見せるようになってきた。それでも、気を遣ってくれているのか、優しい口調は健在なままだった。
「い、いえ……わたしが見てるのは家だけじゃなくて、そ、その……」
「俺っすか? いやー照れますね! 俺も仕事に集中しながら美月さんの事、考えてるんですよ」
「えっ」
「ああ、いやいや……そ、そういう変な意味じゃなくて、学校大丈夫かなとか、今何してるのかな? とか、そんな意味ですよ。あはっははっ……」
「で、ですよね~ご、ごめんなさい」
おい! 休憩終わってるぞ!! 戻れ! 怒声が聞こえて来て、ダイキさんは急いで戻って行く。
「美月さん、じゃあ、また」
「あ、はい。また……」
何てことの無い会話、彼氏でもないのにすごく落ち着く関係……わたしは、どうしたいのかな――