彼の友達
優しい人
変な場所から外へ出たくてたまらなかったわたしは、一緒に出ようかと声をかけた人と外へ出た。でも、それがどういう意味でなんて、考えもせずに……
「じゃあ、行こうか」
「すみません、外に出してくれてありがとうございました。わたしは、これで失礼します……」
「サーヤ……だっけか、何その態度? それが外に連れ出してあげた俺への礼なわけ?」
え? 何……急に口調が変わった? どういうことなの……
「ですから、これで外に出ましたので……これでお別れを」
「はぁ!? っざけんなよおい!! あのな、ああいう場からふたりで外に出るってことは、そういう意味なんだよ! サーヤも承知で出たんだろうが! 違うかよ?」
「……え」
そういう意味? どういう意味なの……? 誰か教えて……あ、拓斗に……
「あん? スマホ取り出して誰を呼ぶつもり? これは没収な。ああ、ついでに俺の連絡入れとく」
「か、返して」
「返さないし、帰さない。今から優しくしてやるから、ついて来いって言ってんの! ほら、来いって」
「や、やめて……」
誰か……誰か助けて。拓斗……!!
賑やかな繁華街の中、わたしは見知らぬ男に手を掴まれながら、強引に歩かされている……どうすればいいの? どうすれば……
「もうすぐ着くから、安心していい。サーヤの顔はキレイだからさすがに傷はつけたくねえしな」
嫌だよ……やめてよ……な、何でこんなことするの……だ、誰かお願い……
「はい、そこまで! 大丈夫? ちょっと、待っててね~」
え? 誰……? 頭にタオルを巻いた人たちが数人でこの人と何かを話している……そして――
「はい、スマホ。取り返したよ。怖かったでしょ? 美月さんだよね。覚えてる?」
……え。あっ……もしかして、拓斗の友達の……
「拓斗の友達さん?」
「お、覚えててくれたね。怖かったでしょ? 良かったよ~俺ら偶然、ここ歩いてたからホント、良かった。ごめんね、拓斗は一緒じゃないけど安心していいから」
あ、あぁぁ……よ、よかった。ファミレスで一回、話をしただけなのに……
「あ、頭にタオルはさ、現場帰りなんだよ。拓斗に聞いてない? 俺らは建築の現場だよ」
「あ、ありがとうございました。あ、あの……本当に何て言えばいいのか……」
わたしはどういえばいいのか分からずに、ひたすらこの人たちに頭を下げ続けた。
「そ、そこまでしなくていいよ。あ、じゃあさ……こいつら代表して俺の名前を覚えてくれる?」
「お名前……ですか?」
「うん、今日の記念……いや、美月さんとの出会いに……かな」
拓斗の友達さん……優しい人。この人だけなら名前を聞いてもいいかな……
「はい、お願いします」
「おぉ! 良かった。俺は、井塚大希。よろしくね、美月さん」
「こ、こちらこそ……助けて頂いてありがとうございました。あの、井塚さん」
「ダイキでいいよ。今度は拓斗と一緒にご飯でも行きましょう! じゃあ、駅まで送るので行きますか」
偶然にも拓斗の友達さんに助けられて、わたしは何とか救われた。こんなに優しい人がいるんだな……そう思いながら、駅まで送ってもらった。
嫌な人に嫌な目に遭いそうだったけど、間一髪のところで優しい人に救われたわたしは、彼らが帰って行く後ろ姿をずっと、眺めていた――
ルビミス修正しました。