感じた距離…
ほんの少しの距離…
お互いの休みに出かけることを楽しみにしていたのはわたしだけじゃなかったはずなのに。どうしてわたしは彼を否定してしまったのだろう……初めての”キス”でもないのに。
何より最悪なのが涙を流してしまったこと。どうしてか分からないけど流れて来た――
あの後、拓斗は、それでも笑顔を見せてくれて……俺が焦りすぎた。なんて言ってくれた。
わたしが言わせてしまった。本当に、たかがキスくらいで……何なの、わたし――
翌日――
「美月、昨日はごめんな。何か、アレだ……上手く言えないけど、俺が勝手に浮かれてた。だから、その、ごめん……」
「う、ううん……わたしが悪かったから……だから――」
互いの家は隣同士。すぐに話は出来る環境だけど、わたしは言葉が出て来ない。
「えと……あ、ああそうだ、俺、現場変わるんだ。だから、しばらく近所で会えない」
「……え」
「まぁでも、何かあればコレでやり取り出来るだろ?」
そう言いながら、彼はスマホをわたしに見せる。それは当分、直接会わずに文字だけの会話……という意味だよね? 本当に現場、変わるんだよね……
「そ、そうだけど……拓斗、あの……つ、次は――」
「ごめん、そろそろ出かける。じゃ、またな、美月」
「……あ」
ほんの少しの距離かもしれないけど、遠くに感じてしまった。自分のせいなのに……
※
こういう時、休みたいけど自分で選んだ道だから学校へ行かないと。そして、こういう時、何も知らない顔で近付かれてしまうのも嫌な場……。
「おはよ。なになに? 元気ないじゃん……何かあった?」
関係ないのに来ないでよ。いつからそんなに距離を縮めて来るようになったの?
「……何もないけど」
「ふぅん? あ、そうそう、約束してた友達が行けないみたいだから、サーヤが参加してよ」
「何?」
「オフ会。あ、別にマニアックなアレじゃないよ? 男子と飲むだけ」
何でわたしを誘うの? 千沙、他に友達いるじゃない。
「わたし、そういうのいい。行かないから……未成年だし」
「うっわ……真面目~もう19じゃん? 飲めるし。ってゆうか、サーヤの名前入れといたから」
「何でわたしなの? 他にいるじゃない。わたし、彼氏いるし……」
自信もって言えないけど……
「もしかしてそういうパーティを想像してんの? 違うって! みんなで楽しむだけだし。決まりだから、サーヤは来てよね。約束破ったら、怖いよ?」
嫌だ……どうして勝手に決めて、勝手に……怖いとかそういうのどうでもいいのに――
※
「――で、こっちが友達のサーヤ。よろしく~」
「……」
結局、脅迫めいた誘いに従うしかなく、わたしはよく分からない所へ来ていた。ただ座ってるだけにする。何も話すこと、ないし。
わたしは騒ぐ方でも無ければ騒げるタイプでもない。だから、場違い。こういう所にいる意味なんてないのに……ホント、バカバカしい。
「キミ、千沙と同じ学校なんだって? サーヤ…で合ってる? 俺、ケースケだけどよろしくね」
「はぁ、まぁ……」
「真面目タイプ、いいね。俺、好きかも」
どうでもいい。帰っていいですか? わたし、いる意味ないと思うんだけど……
「ね、ふたりで外、出ない? つまんないっしょ?」
「外には出たいです……」
「いいね、決まり!」
わたしはとにかくここから出られれば何でもいいと思ってた。外にさえ出れば帰れるし……
「じゃ、俺はみんなに言ってくるから、待ってて」
「あ、はい」
外に出れる。ちょっと安心しながらわたしは出口へ向かおうとすると、千沙がわたしに近付いて来た。
「よかったじゃん。彼、優しくしてくれるよ。じゃ、報告は後でね~」
何が? わたしは外に出て帰るだけだし。優しくしてくれるのは外に出るまででいいし。
「じゃ、サーヤ、行こうか」
出口に出ると同時に、わたしの肩に勝手に手を置いて来る……嫌だ……離して――